第七話 蝶屋敷
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有須沙羅は鍵束を取り出して、皆へそれを見せた。
リング状の鍵束は、下部がUの字に窪んでいる。
「この鍵束は少々特殊な形状をしています。真島さん……貴方はこのからくりに逸早く気づき、それを利用したんです」
どういう事、と戸惑う蝶屋敷の住人と初夏。彼女等を尻目に真島はどうにか顔色だけは変えないよう努めたが、その額を汗が伝っていた。
「からくり……成程」
鍵束をじっと見つめていた時透無一郎が、ぽつりと呟く。
有須沙羅は頷いて、一つの鍵を手にした。
「これはこの部屋の鍵です。よく見ていて下さい」
リング状の鍵束から目的の鍵だけを抜き取るには、紐の長さが足りない。
そこで有須沙羅は下部のUの字部分を利用して、目的の鍵のみ外してみせた。
周囲、特に蝶屋敷の住人が驚愕の表情を浮かべるなか、有須沙羅は動揺の欠片もない冷静な顔つきで話を続けた。
「貴方はこうしてキーストッカーの鍵を使う事なくこの部屋の鍵のみを手に入れた。あとは密室を作り、鍵を戻しておけばいい」
「時間の問題は?」
「それも部屋を一つずらす事で解決します」
「!」
「何よ、それ!どういう事よ!?」
・・・・・・・・・・
「つまり貴女が樹里さんを象ったものが刺される現場を目撃した時には既に隣の部屋では密室が完成していたんです」
「……っ!?」
「あの夜は曇っていて星や月の灯りもなかった。とても暗い夜でした。
樹里さんのベッドは入口から一番近い場所にあった。
人影を象った布団を刺したベッドは、恐らく隣の部屋の一番奥。
つまりズレは僅か窓一つ分。そのくらいの誤差なら気付かなくても不思議はありません。特に目の前で人が刺され、冷静さを欠いたあの状況でなら。
そしてその僅かな差が、二分程度の短縮に繋がる。全速力で駆けつけたとしても、あの状況下では何ら不自然でもありません」
「…………。密室のからくりはそれで説明がつくとして、霊障は?どうやってそんなものでっち上げるんだい?」
「これを」
此方の問いに、有須沙羅はとある部品を取り出して周囲へ見せた。
「これは?」
時透無一郎の問いに有須沙羅は静かに答える。
「配電盤の動作部です」
真島の表情に僅かに動揺が浮かぶ。
まさかそんなところまで見抜かれていたとは……。
「蝶屋敷が頻繁に停電を起こしていたのは、これが原因です。
分解して調べてみたところ表示では30アンペアと記載しているにも関わらず、内部の部品自体は僅か5アンペアしかなかった。
日本の家庭用電圧は100ボルト。電力は電流と電圧の積に等しい。
つまり蝶屋敷の電力は500ワットまで落ち込んでいた。概ね倍から4倍の電力で配電盤が落ちるので、蝶屋敷の広さと使用電力を考えれば計算は合います」