第七話 蝶屋敷
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有須沙羅の指摘を受けて、初夏は眦が裂けそうなほどに瞳を見開いた。
しかし次の瞬間にはハッとした様子を見せ、みるみるうちに頬を紅潮させて、有須沙羅へ食って掛かった。
「ど…っ、どうしてあたしなの!?あたしには動機なんてない!
あたしには、樹里姉を殺す理由なんて……っ!」
「動機はあります」
「なっ……何よ、何だっていうの!?」
「樹里さんの婚約です」
「!!」
「初夏さん、貴女が真島さんや樹里さんをとても慕っていたのは見て取れます。また真島さんが妹である樹里さんを、とても大切に思っている事も。初夏さん……貴女は樹里さんの婚約を“裏切り”と取ってしまったのではないのですか?」
「……!っ、そんなの」
「貴女達三人はとても仲が良かった。だからこそ樹里さんの婚約は貴女にとって“真島さんへの裏切り”に映ってしまった」
「そんなの……!」
初夏はぎりぎりと奥歯を噛み締めながら、有須沙羅を激しく睨みつけた。
「そんなの全部貴女の想像じゃない!あたしはやってない!!
あたしは樹里姉を殺してなんかーー!!」
激昂する初夏を有須沙羅は静かな眼差しで見つめていたが、やがてその長い睫毛をゆっくりと伏せた。
その表情には、僅かに諦念が滲んでいた。
「……できれば貴女の口から真実を聴きたかったのですが、仕方がありませんね」
沙羅は扉の方へと目を向けた。
「どうぞ。入って来て下さい」
有須沙羅がそう言うと、おもむろに扉が開いて一人の隊士が姿を現す。
「あの、俺……見たんです。彼女が亡くなる前日の午前四時頃だったかな、蝶屋敷で怪我の治療をしてもらって……治療を終えてここを通りかかった時に、菊池さん……君が、彼女に差し入れをしてるのを」
初夏の顔色がさっと変わる。
「随分変な時間に差し入れしてんなって印象に残ってて」
「差し入れの内容は分かりますか?」
「魚の煮付けだったよ。不思議に思って暫く見てたから、間違いない」
初夏はどんどんと蒼褪め、わなわなと震えだす。
「証言頂きまして、有り難うございます」
隊士に軽く頭を下げて、有須沙羅は初夏へ向き直った。
初夏はわなわなと震えていたが、やがて諦めたように肩を下げた。
「……一つ訊いていいかしら?」
「どうぞ」
「貴女が犯人を突き止めるって宣言したあの夜、貴女は既に犯人が分かってるみたいだった」
「そうですね。まだ憶測の段階でしたが」
「どうして分かったの?」
「貴女の発言に違和感を感じたからです」
「違和感?」
「はい。樹里さんの死因はパリトキシン様毒。私がそう告げた時に貴女は真っ先にアオイさんを疑うよう仕向けた。パリトキシン様毒は魚に含まれる毒だと言って」
「そうね」
「神経毒パリトキシンはさほど有名ではありません。パリトキシン様毒と聞いて魚に含まれる毒だとすぐに分かる人間は、限られていますから。よほど毒に詳しいか、」
「犯人しか知り得ない情報ってわけね」
「実際に私と胡蝶様、そして貴女以外は、ピンときていないようでしたから」
「よく見てるのね。……あたしの負けよ」
初夏はそっと瞼を下ろすと、自嘲気味に微笑った。