FILE:1 出逢い
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人だかりを抜けて辿り着いた先は都庁ビルの見える広場だった。
ここは長閑で人通りも少ないが、やはりちらほら行き交う人々の視線が気になった。
「うーん。やっぱりここでも目立っちゃうか。良かったらウチに来る?貴女さえイヤじゃなければ、だけど」
「…………えぇ。そうですね」
笑顔の消えた固い表情でしのぶが返した。
とあるタワーマンションの最上階に紫生は一人で住んでいた。
しのぶと二人、エントランスを抜けてエレベーターへ乗り込む。
恐らくは初めて見るであろう地上35階建ての建造物やエレベーターにも、しのぶは特に反応を示す事なくただ黙ってついて来た。
その事に僅かに違和感を覚えながらも、紫生は自宅へと案内する。
「ここだよ」
カチャン、と軽い音がして鍵が開く。
このドアはキーを所持しているだけでセンサーが反応して鍵が開くので便利だ。
扉を大きく開いてしのぶを招き入れようとするが、しのぶは扉の前でにこにことするばかりでなかなか入ろうとしない。
仕方がないので紫生が先に入ると、彼女も続いて中へ。
ほっとしたのも束の間、
「やっと二人きりになれましたね。可愛いお嬢さん」
それまで仄かに香っていた藤の香りが不意にふわりと強まって、しのぶが耳元で囁いた。
はっとして振り向くと同時に、トンと軽く肩を押された。
そうして紫生は壁際に追いやられ、顔を挟むように両手を壁に突かれた。
いわゆる壁ドンの状態であった。
「貴女には幾つか訊きたい事があります」
吐息が触れそうな至近距離、白面に柔和な微笑を漂わせ、しのぶは優しげな声音で囁いた。
だが、その瞳は決して笑ってはいないのが見て取れた。
その様子を紫生はただ冷静に見つめていた。
「ここは何処ですか?本当に日本?お嬢さん、私は日本の出身です。でもあんな街は見た事がありません。それにーーー」
「………………」
「それに何故、見ず知らずの貴女方が、姉さんや禰豆子さんの事を?」
「………………」
「何か仰ってはどうですか?」
「…………そうだね」
紫生はそっと長い睫毛を伏せるとしのぶの腕に触れ、それを降ろさせた。
「少し落ち着いて。あたしからも幾つか貴女に質問があるんだけど、いいかな?」
そう言ってにっこりと笑みを浮かべ、
「貴女の質問とあたしの質問。答えを摺り合わせていかないと、貴女の置かれた正確な状況は掴めないと思うよ」
「………………」
「取り敢えず、上がらない?お茶でもどうかな?」
部屋の奥へと促した。
しのぶは暫く逡巡する様子を見せたが、大人しくついて来てくれたので、紫生は内心でほっと胸を撫でおろした。