FILE:1 出逢い
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東京都新宿区。早朝の駅前は人々が忙しなく通りを行き交い、駅に吸い込まれて行く。
ただ、今日だけは様子が違っていた。
何だか大きな人だかりが出来ている。
いつもの紫生であれば、無視してそのまま通り過ぎる処だが、この日は何となくーー
、、、、、、、、、
本当に何となく気になって覗いてみた。
そうして人だかりの中心にいた人物に、紫生はくらくらするような既視感を覚えた。
つい先程病院の待合室で暇潰しに読んでいた漫画の登場人物の一人が、そこにいたからだ。
「鬼滅の刃」蟲柱 胡蝶しのぶ。
コスプレだろうか。こんな早朝からご苦労な事だ。
一瞬そう思ったが、それにしては身につけているものがクオリティが高過ぎる。
羽織は本物の着物の素材だし、隊服もしっかりとした素材で出来ている。履いている草履も本物だ。
………何より、あの瞳。
菫色だなんて本来人間ではあり得ない色彩のはずだが、観察してみた処カラーコンタクトではなさそうなのである。完全に裸眼だ。
ああ………くらくらする。
自身のまず外れる事ない勘が告げている。
目の前の少女は“本物”である。
ーーーと。
…………本音を言えば関わりたくはない。
けれどこのまま放っておく訳にもいかないだろう。
何故なら。
今は亡き父ならーー澤井 眞己であればーーきっとあの少女に手を差し伸べる。
紫生は複雑そうに微苦笑を浮かべた。
その瞬間、少女の瞳が此方を向いた。
視線が交錯する。
なるほど……綺麗な少女だ。
彼女を象徴する物の一つである蝶々の髪飾りは、ビニール製ではなく絹製のリボンのようだった。
陽射しを弾いて淡く煌めくそれは、毛先が紫色に透ける黒髪に映えてとても美しい。
また、髪と同色の長い睫毛が縁取る菫色の大きな瞳。
すっと通った細い鼻梁。
ふっくらとした桃色の艷やかな唇。
小作りな白い顔の中で、それら全てのパーツが黄金比のバランスで整っている。
加えて小柄で華奢ながらも女性らしい曲線を描く美しい体躯と、上品な物腰。
某黄色い少年が、“女神”と例えた気持ちが分かった気がした。
「こんにちは」
先に声を掛けてきたのは少女だった。
「こんにちは」
「貴女はここが何処かご存知ですか?一応日本……なのでしょうか?」
「うん。日本だよ」
「それにしては………」
会話はそこで途切れた。第三者が突然、無遠慮に会話に割り込んできたからだ。
「小鳥遊先輩!その人知り合いなんですか!?」
そう目を輝かせて尋ねてくる少女はどうやら紫生と同じ学校の後輩らしかった。
特に面識はなかったが、同じ制服を着用している。
「もしかして、これからコスプレパーティーとかですか!?」
「そんなとこ」
「先輩は何やるんですか!?カナエさんとかですか!?めっちゃ似合いそう!」
「禰豆子ちゃんも良さげー」
「私達見たいですぅ」
「有り難う。また今度ね」
「えー」
「それよりこの人あたしの友達なの。連れて行っていいかな?」
「え?あっ……はい……」
「じゃあ、また学校で」
「はいっ!」
こっち、と紫生はしのぶの手を取って人だかりをするりと抜け出して行った。
二人の後ろ姿を熱っぽく見つめていた後輩は。
「あー、紫生先輩!顔キレイ、髪キレイ、肌キレイ、声までキレイ!ずっとファン!」
「落ち着きなって。でも確かに。あんな顔になりてー」
「でっしょ!?」
「それにあのコスプレの人ねー」
「すっごいクオリティだったねー」
「超絶美人だったよね。肌も白くてさー」
「やっぱ類は友を呼ぶのかな」
「ねー」
紫生の後輩も、またざわつく人だかりも徐々に駅の方へと消えていった。