FILE:1 出逢い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
柊の真摯な視線が真っ直ぐに紫生を捉えていた。
紫生はその視線から逃れるように目線を横へ流して気まずそうに苦笑した。
「………それ、毎回言う」
しかし柊は紫生の控えめなクレームを無視して続けた。
「確かにお前の銃の腕前は、あの人ーー眞己さんに匹敵するものがある」
“眞己さん”とは紫生の亡くなった父親の事である。
不意にその名を出されて紫生はピクリと反応する。
「だが、………それだけだ。身体能力はあの人にお前は遠く及ばねぇ。眞己さんの並外れたあの身体能力は、鍛え抜かれた筋肉の賜物だ」
「…………確かに、パパはマッチョだったなぁ」
「以前のお前なら、鍛えれば多少の筋力は得られただろうがな。少なくとも今のお前には無理だ。違うか?」
「………………」
「このままスイーパーを、あの人の真似事を続ければ、いつかお前………命落とすぜ?」
柊の厳しい忠告に、しかし紫生は泣きもせず、怒りもせず。
静かに瞼を降ろしてフッと微笑んだだけだった。
………そして。
「ご忠告、どうも。考えとくよ」
感情や隙を全てシャットアウトしたような、乾いた笑みを浮かべて、紫生は今度こそ診察室を出て行った。
紫生が出て行った扉を暫く見つめていた柊は、やがてくるりと机に向き直る。
「……ったく、あのバカ」
虚空を眺めながらぼやくと、不意に背後から、
「あらあら、随分イライラしてるわねぇ」
シャッと軽い音がして、奥から一人の女性が姿を現した。
「別にイライラなんてしてませんよ。………それより瑠美さん」
「なぁに?」
「此処は貴女の仮眠室じゃないんですが。いつも言ってますけど」
「さっきのは少し言い過ぎなんじゃないかしら?」
「思いっきりスルーですね」
「確かにあの娘は筋力に多少の不安はあれど、身体能力は大したものよ。きっと……日々のトレーニングの賜物ね。
、、、、、
あの身体であの筋力を維持するのは相当な努力が必要なはずだもの」
「………………」
「あの娘はスイーパーとしては一流よ。銃の腕前も然ることながら、スイーパーとしての勘やセンス、機転や洞察力、頭の回転も速いし、武器の扱いや組み立て、知識、弾丸製造技術、トラップ技術、情報収集の人脈、果ては乗り物の運転まで(偽造免許は警察としてはちょっとアレだけど)。まだ幼いけれど、スイーパーとしての総合的な実力は、決してあの澤井眞己にも引けを取らない」
「………分かってますよ」
「なら、どうしてあんな言い方をしたの?」
「………………」
何も答えようとしない柊の背中を眺め、瑠美は苦笑を浮かべると、話題を変えた。
「あの娘には味方が必要なのよ」
「味方?」
「そう。いつもあの娘の傍にいて、味方になって支えてくれる。そんなパートナーが」
「…………そうかもしれませんね」
柊は視線を窓の外へと向けた。
立ち並ぶビルの隙間から見える空は、青く透き通っていて。皮肉な程に綺麗だった。