FILE:2 彼女のお仕事
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小鳥遊 紫生の家に住み始めて数日が過ぎた。
父親の遺言を守り、仇を追わず。
父親の意志を継いで、父親の愛した街を守り抜く。
彼女の生き方はしのぶにとっては理解不能で、はっきりと言ってしまえば少し虚しい生き方のようにも思えた。
だが、彼女の『気持ち』だけは少しだけ分かる気もした。
懸命に、今は亡き父親の真似事をする彼女。
彼女の生き方を否定する権利など自分にはない。
寧ろ手助けしたいとさえ思っていた。
ーーーだが。
「貴女の戦いは終わったの。しのぶさん。これからは、あたし達の番。貴女はもう休んでいいんだよ」
手助けを申し出る度このやり取りの繰り返しである。
しのぶの中に苛立ちともやもやとした感情が、蓄積されていった。
彼女は相変わらず夜になると仕事へ出掛けていく。
しのぶの知らない香りを纏い(香水というらしい)、化粧を施し、まるで大人のような装いで。
隠してはいるが、怪我をして帰って来る事さえあるのだ。
その事に業を煮やしたしのぶはついに、実力行使に出る。
どうやら彼女が苦手らしい壁ドン(ソファの背もたれ)をして、彼女が「しのぶ様手伝って下さい」と言うまで解放しないという作戦だった。
だがそれでも、ついに彼女が首を縦に振る事はなく、しのぶが根負けする形と相成った(何もかもあの赤子のような無垢な瞳がいけない)。
………全く、何て強情な。
自らの暴挙をすっかり棚に上げて、しゃあしゃあと頭を抱えて溜息をつくしのぶだった。
そんなある日の夜の事。
大人の装いで仕事モードの彼女。だが、この日だけはいつもと様子が違っていた。
白い頬を高潮させ、何処か緊張した面持ちで虚空を睨んでいる。
「これからお仕事ですか?」
そう声を掛けると、彼女はハッと我に返ったような顔をして。
「あ、うん……。明日には帰るから」
その態度からは僅かに動揺が垣間見えた。
「そうですか。どうかお気を付けて」
「しのぶさん」
思いがけず呼び止められて振り向けば、一枚のメモ用紙を渡された。
「もし3日経っても戻らないようなら………此処に書いてある住所を訪ねて」
「………どういう意味です?」
声色を低くして問うが、彼女はその質問に答えなかった。
「偏屈な人だけど、根はいい人なんだ。きっと悪いようにはしないから」
「………………。私も行きます」
「それはダメ」
「どうしてですか?」
「前にも言ったけど、貴女の戦いは終わったの。次はあたし達の番。それにこれは………あたしの問題だから。貴女に迷惑は掛けられない」
「………………」
「じゃあ………元気で」
そう言って儚く微笑むと、彼女はマンションを後にした。
しのぶはその場を動けず、立ち尽くす。
ギリ……と、音がするほど強く拳を握りしめた。
姉さん………。
何だか私………。
段々腹が立ってきたわ。
四角い窓の形に切り取られた月の綺麗な夜空。
薄いレースのカーテンが夜風にひらひらと揺れていた。
〜To be continued〜
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次回 FILE∶3 反撃の微笑み