第一章
結局、ぴったり五分の時間を費やして髪を整えられてしまった。
「全くもう。顔も洗わずに式典に直行なんて勘弁してよね」
「そう責めてやるなって。男は女ほど身嗜みに気を遣わないんだよ」
……それにしても。最近はこの二人がセットで居る場面も増えてきた気がする。
何があったのか追及したことも、これからするつもりもないが、いよいよ直向きな恋物語にも兆しが見えてきたといったところか。噂では混戦中にネロがリムに告白紛いのことをしたとも言われているし、時間をおいてその時の出来事を思い返したリムがネロの気持ちに薄々感付き始めたのかもしれない。
「ほら、ルーティ。ぼけっとしてないで早く行く!」
洗面所の鏡に二人を映して眺めていたところ、ぽんと背中を叩かれた。
「気ぃ張んなよ」
ネロが腰に手を置いて笑った。
こうしちゃいられない。ルーティは「ありがとう!」と言って慌ただしく洗面所を飛び出した――が、直後にひょいと顔だけを覗かせて、
「そっちも頑張ってね!」
残して、今度こそ走り去る。
「現金なやつ」
ネロはそう呟いたが。
「……何のこと?」
彼女だけは相変わらず、それだった。