第八章
一瞬。何かを言いかけて、口を噤んだ。
……これまで自分たちが積み重ねてきた言葉が行動が全て無駄だったと言いたいわけじゃない。けれど思うところがあるのだろう。
部隊を纏める部隊長。率いる隊員の命は例え上から守れと命じられた国民の命より重く感じることもあるかもしれない。いくら思考が正義に塗り固められたそれだって虚勢を剥がせば同じ
人間なのだから。
「ロック」
黙りを続ける彼を気にかけて口を開いた。
「失礼します」
はっと振り向いた。
扉を叩く音に気付かない内にひと声かかったかと思うと何者かが入室してきたのだ。
「……!」
思わず息を呑む。
「ルキナ……」
私が。
今度こそ貴方達を守ります。
運命を変えるべくとある儀式を使って未来から駆けつけてくれた聖王クロムの娘。
イーリス国王女、ルキナ。
熱を持っていた胸の内が一気に冷たくなるのを感じた。心臓の音が鈍く響くのを体全体で感じながら先程までの話し声がよりによって彼女に聞こえていなかったことを祈る。