第三章
光に恵まれた世界の裏。
紫の靄と霧が不気味に揺れながら地面を覆い隠す。穴があれば落ちるのだろう。
……いつまでも、何処までも。
神という生き物はどうして広大な心でいつでも人を慈しみ愛するものだと勘違いされるのだろうか。数ある神話がそう魅せているのだろうがいつでも人の理想というものは好都合でいけない。
だって。身を以て思い知らされるんだ。
――有事の際には、特に。
ぎりぎりと首を絞め上げる首輪が呻けど足掻けど剥がれない。飲み込めるはずのない唾液が口端を伝って視界に霞がかかる。流れるのを良しとされない血液が脳裏を赤く染めるようなそんな危機に瀕しながら機嫌を損ねた主は容赦なく。
「……本当に」
冷たく見下しながら。
「使えないやつだな」
踏み付ける。
「与えられた仕事を敵対する組織に掠め取られるとはとんだ出来損ないだな」
蒼海のような瞳は。
「それとも」
深く。
「此の期に及んで恋しくなったか」
捉えて蔑む。
「人の子と同じ温もりが」
偽物集団『ダークシャドウ』率いるそのリーダーのスピカも総合した指揮を受け持つ『亜空軍』の主将マスターハンドとクレイジーハンドには逆らえない。無論その有事の際は如何に優秀な部下であれどんな罰が下されても手出しは厳禁。
お仕置きと聞けば一部胸をときめかせるのだろうが。羨ましいと思うのならされてみればいい。ただ親が子を叱るような可愛いものではない。
ほんの一瞬でも気を緩めれば。
いとも簡単に殺されてしまうのだから。