第三章
暫く歩いて、ルーティはふと浮かんだ疑問を口にした。
「『フォーエス部隊』のフォーエスって何?」
単純且つ難儀な質問だった。それがどうしたと返されたところでこんなものは単なる好奇心でしかない。ただ気になっただけです、と。
「フォーエスとは“Four S”。四つのSから来ているんだ」
ロックマンはすんなりと返した。
「sublime(崇高)、sincerity(誠実)、salvation(救済)、stern(厳格)……これら部隊のコンセプトに基づいた四つの英単語の頭文字を取って“Four S”」
「へえ」
ルーティは目を丸くして感心した。
「結構考えてるんだね」
「そうでもないさ。これは今考えた嘘だからな」
……思わず転けそうになった。
「じゃあ本当は?」
「言ってみれば単なる言葉の響きだ。けれどよく考えてみてほしい。この世界にはどれだけ意味のない言葉が溢れてると思う?」
話の展開は唐突に。ルーティはうーん、と考えた。
「君たちは『X部隊』だろう。このXに意味はあるかい?」
「それは……」
「無いだろうな。でもそれは違う」
ロックマンは語り出す。
「人が『X部隊』の名を耳にした時様々なものを思い浮かべるだろう。特殊防衛部隊、正義の味方。曲がったところでは人殺しなんて考えも有り得るだろうな」
歩幅を合わせつつ顔を向けて。
「君たちが気付かない内に『X部隊』とは様々な意味を持つ一種の単語となっていたんだよ」
な、何か凄いことを言い始めたぞ……
「それって辞書に載るのか?」
「はは。恐らくそれはもう少し先の未来の話になるだろうな」
ファルコが聞くと肩を竦めて。
「今はまだこのフォーエスの名に意味はないのかもしれない。けど言葉に意味を持たせるのはその言葉を生み出した人が何をするか、だと俺は思う。そうなれば自分たちが為すべきことはただひとつ」
ロックマンはふっと笑み。
「……どちらの名前がより早く辞書に載るものか楽しみだな」
「儂は辞書なんか難しいものより雑誌に載りたいのう」
「週刊情報誌なんかでなけりゃいいが」