エメラルドグリーンに愛を誓う

 寄せては返す波のように美しい、淡く儚い恋だった。

 僕が大学に入ってすぐ、十九歳になったばかりの頃のことだ。
 美人のハーフが入学してきたと学内でも噂になるほどの、誰もが振り向く金髪に透き通るような青い瞳の彼女──それがマリッサだった。
 マリッサは学年で一番成績優秀だった。それでいて気取らず、屈託なく朗らかでよく笑う。どこか抜けているところすらある彼女に、僕は当然のごとく惹かれた。
 思えば最初から、同じゼミだというくらいしか共通点がなかったにも関わらず、僕とマリッサはなんとなくお互いに近いものを感じていたように思う。
 今となっては、それを彼女に確かめることすらできない。
 ある時、彼女が僕の課題を手伝ってくれたことがあった。難しい数列課題に四苦八苦する僕を見て、彼女はじれったくなったのか、

「ねぇ。その課題、私が全部終わらせちゃ駄目?」

 そう上目遣いで訊いてきた。

「君ならすぐなのにな。ありがとう。でも、いいよ。あとは自分の力で解きたいんだ」

 苦笑しながらそう言うと、彼女は少し考えてから、

「──そう。じゃあ……その課題が無事に終わったら、私とキスして」

 唐突に、そう言った。そう言ったのだ。
 なにが彼女の琴線に触れたのかわからない。けれど、僕達はこうして始まった。
 三年生に進級し、順調に交際を進めていた頃、海外の大学院に進学を決めた僕はマリッサにプロポーズしようと考えていた。
 コツコツ働いて貯めたお金で指輪を買った。
 幸福だった。
 その数日後のことだった。
 彼女を襲ったのは、末期の癌だった。
 なぜだ。なんで。どうして。
 どうしてマリッサが────。
 失意のどん底に落ちた僕は、マリッサをこの綺麗な海に誘い出した。

「結婚しよう」

 プロポーズすると、マリッサは泣き笑いの顔になって、それでも泣くのを堪えていたように思う。
 キラキラとした、この海で。人生最高のキスをした。
 マリッサは、婚姻届を提出するのを拒んだ。僕ののちの人生を考慮してのことに違いなかった。
 生前、彼女が僕宛に書いたという手紙を読む。

『私の人生で一番ハッピーなことは、あなたに出会えたこと。そしてあなたの恋人になれたこと』

 ──航くん!

 瞳を閉じて深く息を吸い込む。あの日の彼女の笑顔を思い出しながら。
 いつかきっと、僕が君のところへ行くその日まで。

 君のことが一番好きだと、世界で一番愛しているのだと、このエメラルドグリーンに誓うよ。

(了)
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