雑記
部屋に帰ると、部屋の奥、隅の方で、兵助が膝を抱えてうずくまっていた。
(帰っていたのか・・・)
音をたてないように近寄ってみると、小さく押し殺された嗚咽が聞こえる。
(・・・ああ、そうか。昨日の忍務は・・・)
思い出した。昨日、兵助があたっていた忍務実習。ろ組の、八左ヱ門と三郎も、少し前に、同じ実習に行っていた。あとまだ当たっていないのは、自分と、雷蔵だけのはず。
(・・・暗殺忍務・・・)
一体、誰を殺したのだろうか。とりあえず、なんとなしに横に座ってみる。
「・・・領主だと・・・」
「ん?」
口の端から、絞り出すような声がした。
「領主だと、言うから・・・。先生たちくらいの・・・大人と、思っていた・・・。なのに・・・・・!」
「・・・うん」
言いたいことは、なんとなくわかる。多分、兵助が殺したのは、きっと・・・――
「まだ、十にも、なっていないような・・・子ども、だったんだ・・・。なにも知らなくて・・・これから先、もっと、したいことだって・・・あったかも、しれないのに・・・!」
「うん・・・」
かけてやる言葉が、見つからない。忍務だと、割り切れるほど、誰もまだ、強くはないから。だから、ただ、横にいることしかできない。
八左ヱ門も、泣いていた。三郎も。殺したのは、子どもではなかったようだけれど、それでもふさぎ込んで、しばらく部屋から出てこなかった。
雷蔵も、きっと泣くだろう。誰よりも。ろ組の他の2人のときも、一緒になって泣いていたから。もしかしたら、遂行することを、まず躊躇ってしまうかもしれない。
(雷蔵は、優しいから・・・)
でも、自分は・・・―――
(・・・俺は、泣けるのかな・・・・・―――)
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