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喫茶店2



 「ごめんね。どうしてもバイト抜けられなくて」
席に着くなり、雷蔵が言った。本当なら午前中から会う約束だったのを、彼のバイトの都合でずらしたからだ。だが、おかげでこちらも心の準備をする余裕ができたのだから、何も問題はない。
 いや、雷蔵と会える時間が短いのは寂しいのだが。
 「いや、忙しいのに呼びだしたのはこっちだから」
なんて答えたら、嬉しそうな、少し困ったような顔で笑うから、たまらなくなる。可愛いなぁもう!
 心の中でジタバタしていると、ウェイトレスがやってきたので、私は紅茶の二杯目を、彼はカプチーノを注文した。
 「それで、話ってなんだい?」
彼の言葉に、ドキリとした。そうだ。話があると、呼び出したのは自分だ。そして、話の内容も、ちゃんと整理してきたし、頭の中で、何度も何度も練習した。この上ないくらい、準備に準備を重ねてきた。なのに、どうしようもなく、ドキドキする。顔が熱い。今まで普通に見られていた彼の目をまともに見られなくて、私はふいと目を逸らしてしまった。
 「三郎?」
訝しむ雷蔵の声がする。ろくに反応も返せず、そのままもじもじしていたら、ややあってふう、とため息をつかれた。
 「ねぇ、三郎。お前が何も言わないなら、僕の話から、聞いてくれるかい?」
「へ?」
話?話って?そんなの聞いてない。好きな子ができたとか言われたらどうしよう!
 「は、話って・・・?」
「うん」
彼は照れながらも、ごく自然に、口を開いた。
 「実はね、僕、お前に話さないといけないことがあって・・・」
「幻滅しないでね」と、雷蔵が付け足す。幻滅なんてする訳がない。彼のことならなんだって、受け止められる自信はある。さあ来い!
 「あのね、三郎。僕・・・・・・僕、お前のことが好きなんだ」
「へ?」
また、妙な声を上げてしまった。今彼は、何と言った?私のことが好きって、それは、友人としてではなく、という意味で?これは夢?夢なのか?
 「ら、雷蔵・・・」
「ご、ごめんね!いきなり、こんな話・・・。幻滅しないでって言われてもするよね、普通・・・・・」
いや、そうじゃなくて!と口を開こうとしたら、不意にぶわりと視界が歪んだ。
 「さ、三郎!!?」
慌てた雷蔵の声がする。情けなくて、みっともなくて、恥ずかしくて。それでも、ぼろぼろと零れ落ちる涙は、止まらなかった。
 「ごめんね!やっぱ嫌だよね!気持ち悪いよね!!」
「ちがっ、違・・・く、て・・・!」
絞り出した声の、なんとか細いことか。それでも、必死に顔をあげると、今にも泣き出しそうな瞳とかち合った。
 今、言わなければいけない。彼の想いに、応えなければいけない。
 「わ、私も・・・」
君に、聞いてもらわなければならないんだ。
 「私も・・・君が・・・す、すす、好き・・・です・・・・・」
やっとのことで口に出した言葉は、予定とは全く違ったし、最後の方は蚊の鳴くような声だっただろう。
 「よ、かった・・・・・」
「雷蔵!?」
雷蔵の目から、涙が一筋零れ落ちた。
 「よかった・・・。あんなこと言ったから、僕、嫌われたらどうしようって・・・だから・・・・・!」
嫌いになんて、なれるはずがないのに。
 「嫌われたらどうしようは、こっちの台詞だよ・・・」
「へ?」
えぐえぐとしゃくりあげる同年齢の男を可愛いと本気で思っている時点で、もう手遅れだ。
 「本当は、私が君に告白をしようと思っていたのに、先を越されてしまって・・・」
しかも泣いてしまうとか、恥ずかしすぎて消えてしまいたくなった。でも、雷蔵が泣きだしたのを見て、不思議とこちらは妙に落ち着いてしまった。いつの間にか、涙も止まっている。
 「じゃあ、僕たち、両想い・・・なの・・・・・?」
「そのようだね。だから、雷蔵・・・」
だからもう一度、ちゃんと言わせてほしい。
 「君が好きです。私と、付き合ってください」
私は男だけど、君を好きな気持ちは、誰にも負けないから。
 テーブルの上におかれた手にそっと触れると、弱弱しく、しかしはっきり分かるように、握り返してくれた。
 「こちらこそ・・・。男の僕で、いいのなら」
そう言って泣きながらも、微笑んでくれる君が何よりも愛おしい。
 だから、これからも君の笑顔を傍で見ていられるのなら、結局先を越されてしまったけれど、告白しようと決めて正解だったと思えるんだ。





 「・・・店長。あそこのテーブルの追加注文、いつ持っていけばいいですかね?」
「うーん・・・・・。もうちょっと待ってあげたら?




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