喫茶店
いつもと同じ喫茶店で、14時に待ち合わせた。きっと彼は、約束よりも大分早い時間から来ているのだろう。きっと一生懸命、僕の服装を予測して、それに自分の服装を合わせてくれる。だから僕も、彼の予測を裏切らないように、慎重に服を選ぶ。
腹の探り合いのようにも思えるが、ずっと同じことを繰り返してきたから、もう慣れてしまった。
彼と出会ったのは、高校2年の夏。転入生として教室に入ったとき、たまたまかち合った彼の瞳を、僕は今でも覚えている。黒い瞳がきらきらと輝いていて、とても綺麗だと思った。思えばあれは、一目惚れというやつだったのかもしれない。
彼はとても面倒見がよく、授業の合間ごとに、僕のところに来てくれた。不慣れな場所で右往左往するばかりであった僕にとって、彼は頼りになる存在であり、「クラスメイト」が「友人」に、そして「親友」になるのに、さしたる時間は要さなかった。
でも僕は、それで満足できなかった。いつの頃からか、自分たちの関係が「親友」であると自覚するたびに、心にぽっかりと穴が開いたように淋しくなった。
僕は彼が「欲しかっ」た。艶やかな黒い髪も、黒曜石のような美しい瞳も、桜色の爪に彩られた繊細な指先も、全て自分のものにしたかった。
傲慢だと思った。あまりにも愚かだと。だが、この思いを伝えないまま隣にいたら、いつか僕はおかしくなってしまうのではないかとさえ、思った。
それほどまでに、僕は彼を愛していたのだ。
だから今日こそ、彼に伝えるのだ。拒絶されてしまうかもしれない。今の関係が、壊れてしまうかもしれない。それでも、僕自身の為に、伝えなければならない。
現在13時50分。喫茶店のテーブルで、彼はいつものように待っている。嬉しくて、僕は走った。
「遅くなってごめん!待ったかい?三郎」
息を切らせる僕に、彼はいつもと変わらぬ笑顔を向けてくれる。
「いいや。私も、今来たところだよ、雷蔵」
傲慢な僕を、どうか赦して。
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