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喫茶店


 いつもと同じ喫茶店で、14時に待ち合わせた。いつもと同じようにラフな格好で来るであろう彼に合わせ、こちらもあまり気負った服装はしていない。
 現在、13時30分。今日こそ伝えようという言葉を、頭の中で、何度も何度も繰り返す。
 彼と出会ったのは、高校2年の夏。転入生として教室に入ってきた彼と目が合った途端、私の心臓は跳ねた。思えばあれが、一目惚れというやつだったのだろう。
 その日からのなりふり構わぬアプローチの賜物か、「クラスメイト」が「友人」に、そして「親友」になるのに、さしたる時間は要さなかった。
 でも、違うのだ。私が望んでいるのは、こんな形ではない。私は彼と「親友」でいることを、苦痛に感じるようになっていた。もちろん、一緒にいるのは楽しいし、幸せだ。だが、私と彼が「親友」であると自覚するたびに、心の中に、ぽっかりと穴が開いたような気になる。
 私はいつの間にか、彼を「欲しい」と思ってしまっていた。拒絶されるかもしれない。今の関係が、壊れてしまうかもしれない。それでも私は、彼を愛さずにはおれなかった。
 その手をとって、抱き寄せて、口付けたい。温かな手も、優しい瞳も、髪の一本一本すら、自分のものにしたいのだ。
 現在、13時50分。もうすぐ、彼は来るだろう。
 この関係が壊れたら、二人で会うのは、これが最後になるかもしれない。それでも、伝えなければならないのだ。それは、誰の為でもない、他ならぬ自分の我儘の為だ。
 「遅くなってごめん!待ったかい?三郎」
息をきらせて飛び込んできた彼に、私はいつもと同じ笑顔で応える。
 「いいや。私も、今来たところだよ、雷蔵」
 腹の底に、醜い想いを隠したまま。


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