特級呪術師だった彼と
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「それ・・・痛くないの?」
傑の部屋でトランプをしていた私は、初めて見た時から疑問に思っていたことを率直に伝えた。
「ん?何がだい?」
「ピ・ア・ス」
傑の耳元についている黒いボタン型のようなピアスを指さした。
「別に大したことはなかったよ」
「だってそれ、耳にバチンって穴開けないとつけれないんでしょ?」
「興味あるの?」
「うん。だってかっこいい。」
そう言いながら傑の手札を引いた。ピエロが笑っているカード、ババだ。
「んぐ」
「くっくっ」
笑いながら、傑が私の2枚しか残っていない手札に手を伸ばし、5のハートを引いてしまった。
「ああ!!??」
「私の勝ちだね」
「はあ・・・勝てると思ったのになあ・・・。」
そう言いながら、傑の耳についている重たそうにみえるピアスを見つめた。
「そんなに気になるのかい?」
「うん。それって触っても痛くないの?」
ん、触ってみたらどうだい?と言い、向かいに座っていた傑は私に近づき、耳を差し出した。
「・・・じゃあ、お言葉に甘えて」
恐る恐る触れると、ふにっとした柔らかい耳たぶと硬いピアスが触れた。
少し引っ張っても、ピアス自体を押しても傑の表情は痛みに眉をしかめることはなかった。
「本当に痛くないんだ・・・」
人の耳たぶなんて、ましてや好きな人の耳たぶなんて、触る機会なかなかないだろうと思い、夢中になって触った。
「・・・少し恥ずかしいぐらいだよ」
「あっ、ご、ごめん」
あわてて手を離すと、傑は優しく目を細めて笑った。
私は顔が火を吹くくらい暑いのに、傑は平然としていてなんだか、納得がいかない。
「ここにピアッサーあるから、今開けようか」
傑は立ち上がり、机の引き出しをあけてあるものを取り出した。
「え」
傑が私の前にしゃがみ、ふんわりと傑の優しい香りが鼻をくすぐった。
「い、いやあ、そりゃあかっこいいし、開けたいと思ってるよ?」
「・・・」
傑は楽しそうに、にっこりと微笑んだ。
「まずは消毒しないとね」
「へ・・・」
傑はウェットティッシュを取り出し、私の耳たぶに触れた。
「つ、冷たい」
思わず顔を背けようとすれば、傑のあたたかい手が私の頬にあたった。
まって、好きな人に耳たぶ触られるのなんてすごい恥ずかしくない?!
「場所は、この辺でいいかな」
ピアッサーが耳たぶに触れているのも、じっ・・・と覗き込む傑にもドキドキしてしまい、私は頭がくらくらした。
「傑、まっー・・・」
「くっ・・・くく・・・」
「!?」
「冗談だよ。名前が怖いって言っているのに開けるわけがないだろう」
くっくっくとお腹を抱えて笑っている目の前の男は、本当に意地が悪い。
「ほ、ほんとにびっくりしたんだからね!!!」
「うん、知っているよ」
私の耳たぶたくさん触ったからね、お返し、と傑は言って、元あった机の引き出しにピアッサーを閉まった。
「痛いのも怖いだろうし、病院で開けてもらった方がいいんじゃない?」
「んー・・・でも高いし・・・。かと言って自分で開ける勇気もない。傑は痛くないって言うけど、私は痛いかもしれないし。」
「信用ないね」
傑がまた目の前に座った。
「傑と私じゃ丈夫さが違うってこと」
「じゃあ今日みたいに私が開けてあげるよ」
そう言いながら、床に広がったトランプをかき集めて、札をきった。
「傑が?」
「私だったらお金をとらないし、名前が尻込みした時にバチンって開けてあげれるよ」
「うわっ・・・」
バチンと自分の耳元で鳴ることを想像し、鳥肌が走った。
「でも、うん、いつまでもピアス開けれないのは、嫌だし、いいかもしれない」
「名案だろう?」
そう言いながら、傑はトランプをあっという間に全部を配り終わってた。
「うん、じゃあ約束ね。私が覚悟決めたら、傑に開けてもらう。」
「楽しみだな。」
傑はまた意地悪く、目を細めて笑った。
「あ、悟には言わないでね。悟も参戦して、楽しそうだから、片耳開けさせろとか言って、変な場所に穴あけられそうだから。」
「言わないさ。私が責任をとるよ」
なんだかくすぐったい言葉に、私は笑ってしまった。
「ふふ、ありがとう。ところで、次はなに?またババ抜き?」
「いや、もう飽きたから大富豪にしようと思って」
「いいね!!そろそろ悟と硝子も来る頃だしね。」
そうして、悟と硝子が来るのを傑と大富豪をしながら待った。
私は、その日から傑と2人だけの約束をしたことが嬉しくて、ピアスを開ける覚悟が決まってもなかなか傑に言えなかった。
あの約束をしてから、1年がたった。
傑は高専からいなくなってしまった。
「・・・こんなことになるならさっさと開けてもらったらよかったね。」
傑の部屋に入り、ぽつりと呟く。
傑がいなくなってから、1週間が経った。
部屋に入れば、傑の匂いが残っていて、部屋もまだ傑がいたときのまんまで、今にも帰ってくるんじゃないかなんて、思えてくる。
夜蛾先生がいつまでそのままにしてるかわからないけど、きっと近いうちにこの部屋も片してしまうのだろう。
その前にどうしても、傑への気持ちに踏ん切りをつけるために、自分の手で約束を終わらせたかった。
「・・・確か・・・」
記憶を辿り、机の引き出しにピアッサーをいれていたことを思い出し、引き出しをあけた。
「あった・・・」
懐かしいピアッサーと大きめの除菌ウェットティッシュは、机の2番目の引き出しに入っていた。
机の引き出しの中を見たのは初めてだったものの、きっちりと整理されており、傑らしさを感じた。
「・・・」
あの日と同じように、床に座り、傑との会話を思い出す。
『ここにピアッサーあるから、今開けようか』
『まずは消毒しないとね』
『場所は、この辺でいいかな』
右耳をしっかりとウェットティッシュで拭き、耳たぶの真ん中に、鏡を見ながらピアッサーを耳に添える。
心臓がバクバクして手が震えそうなのをぐっと堪える。
「大丈夫・・・傑も痛くないって言ってた」
ああ、ここに傑がいたらなんて言うだろう。
私が怖がってるのをみて笑うのかな。
生唾をごくりと飲んだ。
「・・・3、2、1」
バチンという大きな音が耳元で響いた。
「・・・っ・・・痛ったあ・・・・・・」
傑、痛くないなんて嘘じゃん。耳すごくジンジンするし、びっくりして心臓どくどくするよ。
『別に大したことはなかったよ』
『じゃあ、今日みたいに私が開けてあげるよ』
『言わないさ。私が責任をとるよ』
「っ・・・嘘つき・・・やっぱり痛いじゃん・・・」
目から溢れた涙は、止まらず制服の袖を濡らした。
1週間前までここで過ごしていた傑はもうここに帰ってくることはないことも、もう私との約束を果たす日はこないことも、気持ちを伝えられなかったことも全てが悲しくて、悔しくて、むせび泣いた。
来たのはお昼頃だったのに、気づいたら日が暮れていた。
結局、予想以上に痛かったし、泣いて時間が経ってしまったから、片耳だけで断念してしまった。
・・・それに、あの時は少しでも傑に近づきたくて、あわよくばお揃いのピアスをつけれるかな、なんて舞い上がっていたけど、もうその必要もない。だから片耳だけでいい。
約束を終わらせることができたならそれでいい。
そう思いながら、ウェットティッシュを戻そうと引き出しを開ければ、引き出しの奥に花柄の小さな包みが見えた。
「・・・」
人のものを勝手に見るのは気が引けるが、もうどうせ処分されるものだし・・・と言い聞かせ、花柄の紙でできた包みを手に取った。
「・・・誰へのプレゼントなんだか」
そう呟き、裏返せば、そこには傑の手書きの文字で
"名前へ"
と書かれていた。
急いで開け、そこに入っていたのは丸い赤色のファーストピアスと傑と同じようなマグネットピアスが入っていた。
「なにこれ・・・・・・」
無事に穴を開けられた時用のファーストピアスと怖気付いた時ようのマグネットピアス。
もし、お願いをしていたら、こんな形じゃなくて、きちんとこれを傑の手から貰えたのだろうか。
「・・・っ・・・」
鼻の奥がツンとした。
その瞬間に、約束を終わらせるだけでは、傑を忘れることなんてできないと悟った。
「・・・ほんとムカつく・・・」
私は泣きながら、右耳にファーストピアスをつけた。
赤色が夕日に反射してキラキラと光って綺麗だった。
これまでの思い出も、傑への思いも、この高揚した瞬間も忘れたくない、忘れてやるもんかと強く思った。
左耳にマグネットピアスは付けないし、これからも穴は開けない。
その代わり、次傑に会ったら、どんな状況であろうと「傑のせいで、片耳しか開けられなくて、とんちんかんになっちゃったよ。ほら責任とるって言ったでしょ」って意地悪を言って罪悪感を感じさせてやろう、と心に決め、傑の部屋を出た。
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