さよなら僕の聖母様
最近夢を見る。
昔の夢だ。僕がまだ人の体を得る、ずっとずっと前の夢。
それなのに夢の中の僕には体があって、冷たい潮風に頬を打たれているような感覚がした。
そして、僕は人を斬っていた。
夢なのか、記憶なのかはわからない。痩せた子供を、子供を身篭っている母親を、木の棒一本しか持っていない少年を――
悪夢だ。いや、悪夢なんかじゃないか。これは僕の罪だ
一体誰がこんな馬鹿げた戦を始めたのか、戦の首謀者は、そんなことはもうどうでも良かった。誰であろうと斬り捨てた。そうする他なかった。
夢の中なはずなのに鉄臭い血の香りが僕の周りを纏った。
……血を、流さないと。
そんな気持ちばかりが募ってくる。
そんなことしたって赦されるわけがないのに。
戦で負う傷は、かすり傷から肉を抉られるものに変わった。
肉を抉られたら血が出る。その状態で戦ったらもっと血が出る。血がなくなって体温が下がるはずなのに僕は随分と高揚していた。
笑みが自然に浮かぶ。桑名にはそんな戦い方やめてって言われたけど、懐に突っ込んだ方が一撃で倒せるんだからと返したらため息を吐かれて終わった。
戦い方とか、そんなことはもうどうでもよくなっていた。言い訳じみた言葉を桑名には並べたけれど、血を流したいだけだ。僕は、そうしないと。
「……敵、強かった?」
僕に手入れをしながら主にはそう聞かれた。いや、と言葉を濁すように告げれば主は「そっか」とだけ頷く。
戦に出る度に血を流す量が増えて行った。篭手切には苦い顔をされて、歌仙には咎められたけど、なんとなくやめる気にはなれなかった。
最後の一滴まで、僕は血を流さないといけないから。
その日は朝から酷い雨が降っていた。五月雨は嬉しそうにしていたけれど村雲は嫌そうにしていた。その日向かった戦場は、そんな本丸の天気とは裏腹に晴天だった。場所は関ヶ原。何度も行っている、特に難しくもない戦場だ。
結論から言うと僕はそこで重症になって手入れ部屋に運び込まれたわけだが。
多分敵が強かったわけではないのだと思う。あとから自分から斬られにいくひとがどこにいるかって五月雨にさんざん叱られたから。
「おい、松井!」
そんな豊前の声を最後に世界が反転した。暈ける視界の先に、自分の足が転がっているのが見えた。多分足が斬られたんだろうなあと思う。
「……フ、フフ……」
乾いた唇からそう息が漏れた。後頭部が自分の血で濡れている。頭を地面に打ったのかもしれない。
体に力が入らない。心臓の鼓動がやけに早くなっている。これで全部終わりにできればいいのに。
そんなことを思いながら、僕は意識を失った。
昔の夢だ。僕がまだ人の体を得る、ずっとずっと前の夢。
それなのに夢の中の僕には体があって、冷たい潮風に頬を打たれているような感覚がした。
そして、僕は人を斬っていた。
夢なのか、記憶なのかはわからない。痩せた子供を、子供を身篭っている母親を、木の棒一本しか持っていない少年を――
悪夢だ。いや、悪夢なんかじゃないか。これは僕の罪だ
一体誰がこんな馬鹿げた戦を始めたのか、戦の首謀者は、そんなことはもうどうでも良かった。誰であろうと斬り捨てた。そうする他なかった。
夢の中なはずなのに鉄臭い血の香りが僕の周りを纏った。
……血を、流さないと。
そんな気持ちばかりが募ってくる。
そんなことしたって赦されるわけがないのに。
戦で負う傷は、かすり傷から肉を抉られるものに変わった。
肉を抉られたら血が出る。その状態で戦ったらもっと血が出る。血がなくなって体温が下がるはずなのに僕は随分と高揚していた。
笑みが自然に浮かぶ。桑名にはそんな戦い方やめてって言われたけど、懐に突っ込んだ方が一撃で倒せるんだからと返したらため息を吐かれて終わった。
戦い方とか、そんなことはもうどうでもよくなっていた。言い訳じみた言葉を桑名には並べたけれど、血を流したいだけだ。僕は、そうしないと。
「……敵、強かった?」
僕に手入れをしながら主にはそう聞かれた。いや、と言葉を濁すように告げれば主は「そっか」とだけ頷く。
戦に出る度に血を流す量が増えて行った。篭手切には苦い顔をされて、歌仙には咎められたけど、なんとなくやめる気にはなれなかった。
最後の一滴まで、僕は血を流さないといけないから。
その日は朝から酷い雨が降っていた。五月雨は嬉しそうにしていたけれど村雲は嫌そうにしていた。その日向かった戦場は、そんな本丸の天気とは裏腹に晴天だった。場所は関ヶ原。何度も行っている、特に難しくもない戦場だ。
結論から言うと僕はそこで重症になって手入れ部屋に運び込まれたわけだが。
多分敵が強かったわけではないのだと思う。あとから自分から斬られにいくひとがどこにいるかって五月雨にさんざん叱られたから。
「おい、松井!」
そんな豊前の声を最後に世界が反転した。暈ける視界の先に、自分の足が転がっているのが見えた。多分足が斬られたんだろうなあと思う。
「……フ、フフ……」
乾いた唇からそう息が漏れた。後頭部が自分の血で濡れている。頭を地面に打ったのかもしれない。
体に力が入らない。心臓の鼓動がやけに早くなっている。これで全部終わりにできればいいのに。
そんなことを思いながら、僕は意識を失った。