星探し
それからまた一月ほど時が経った。
俺はあれから毎週待ち合わせの時間に、いつもの場所に足を向けた。
しかし篭手切はどんなに時が経ってもやってくることはなかった。
俺は気がつけば他の時間もずっと篭手切を探すようになっていた。しかし篭手切との再会の日はついに訪れなかった。
クワも数ヶ月するともう篭手切の話をしてくることはなくなった。俺に気を使ってくれているのだろう。俺も半分諦めていた。それでもどこかで、あの篭手切のことを探してしまっている。
そんな、ある日の夜だった。
仕事を終え下宿に向かうため事務所から出ると、ひとり分の人影が見えた。
その見覚えのある姿に、「え」と俺は率直な驚きの声を出す。
「……篭手切?」
そこに立っていたのは、あの数ヶ月毎週顔を合わせていた篭手切だった。
すぐに駆け寄る。話したいことはたくさんあった。
なんで急に来なくなったんだとか、大丈夫だったかとか……色々あったはずなのに、最初に出てきたのは
「会いたかった」
と、そんな言葉で。
「……突然すみません。これを、返しに来たんです」
篭手切は俺の言葉に返すことはなく、手に持っていたものを俺に押し付けてくる。
カメラだった。あの日マツが持って行った、倉庫にあったカメラ。
「何も聞かずに受け取ってください」と言うその勢いに気圧されながらカメラをもらう。それからすぐに篭手切は頭を下げて去ろうとしてしまった。
「おい、ちょっ……待て!」
咄嗟に反対側の手で篭手切の腕を掴む。そして半ば無理矢理俺の方を向かせた。廊下が暗いせいでよく見えないが、篭手切は涙を流している。
俺はかなり動揺しながら「どうしたんだ」と呟く。
すみません、とだけ篭手切は返す。
「それじゃわかんねぇよ」
「すみません、何も……何も言えないんです。仕事で、ミスをして、私のせいなんです、松井さんが……。……私はこれ以上みなさんと一緒にいれません。本当に楽しかった、それは嘘じゃない……皆さんにありがとうと伝えてください」
「いや、ちょっと待てよ、どうしたんだよ」
話が全く見えて来ない。困惑しながらそう眉を顰めるが、篭手切は顔を歪めてもう一度だけすみませんと繰り返した。
「……きっともう会うことは無いでしょう。りいだあ、あなたをお慕いしておりました。あなたと一緒にれっすんができてよかった」
涙を拭うと、篭手切はそう頭を下げた。俺は呆然としたまま、その姿を見つめている。はらりと俺の手の中から篭手切の腕が抜けていく。
「どうかお元気で」
「っ、おい!」
すぐに追いかけようとするが、すぐに篭手切は姿を消してしまった。
答えは、すぐそこにあったのに。
ああ、桑名の言う通りだった。すぐにでも伝えておけばよかったのだ。
.....いや、いつでも俺は篭手切には追いつけなかった。
せめて、最後、俺もそうだって声を出せばよかったのに。
俺は遠くにある一等星に手を伸ばすばかりで、そのまま終わってしまっていた。
そう篭手切が望むのなら星にでも何でもなりたいと思っていたけれど、そんなことを勝手に想像していただけで。
実際は遠い星を眺めていただけだったのだ。
その小さな背中が見えなくなり、俺は篭手切が渡してくれたカメラを抱えたまま床に膝をついた。
「くそっ……」
どうにもならないような声が、静寂の中に消えていく。
星の灯が、消えた。
俺はあれから毎週待ち合わせの時間に、いつもの場所に足を向けた。
しかし篭手切はどんなに時が経ってもやってくることはなかった。
俺は気がつけば他の時間もずっと篭手切を探すようになっていた。しかし篭手切との再会の日はついに訪れなかった。
クワも数ヶ月するともう篭手切の話をしてくることはなくなった。俺に気を使ってくれているのだろう。俺も半分諦めていた。それでもどこかで、あの篭手切のことを探してしまっている。
そんな、ある日の夜だった。
仕事を終え下宿に向かうため事務所から出ると、ひとり分の人影が見えた。
その見覚えのある姿に、「え」と俺は率直な驚きの声を出す。
「……篭手切?」
そこに立っていたのは、あの数ヶ月毎週顔を合わせていた篭手切だった。
すぐに駆け寄る。話したいことはたくさんあった。
なんで急に来なくなったんだとか、大丈夫だったかとか……色々あったはずなのに、最初に出てきたのは
「会いたかった」
と、そんな言葉で。
「……突然すみません。これを、返しに来たんです」
篭手切は俺の言葉に返すことはなく、手に持っていたものを俺に押し付けてくる。
カメラだった。あの日マツが持って行った、倉庫にあったカメラ。
「何も聞かずに受け取ってください」と言うその勢いに気圧されながらカメラをもらう。それからすぐに篭手切は頭を下げて去ろうとしてしまった。
「おい、ちょっ……待て!」
咄嗟に反対側の手で篭手切の腕を掴む。そして半ば無理矢理俺の方を向かせた。廊下が暗いせいでよく見えないが、篭手切は涙を流している。
俺はかなり動揺しながら「どうしたんだ」と呟く。
すみません、とだけ篭手切は返す。
「それじゃわかんねぇよ」
「すみません、何も……何も言えないんです。仕事で、ミスをして、私のせいなんです、松井さんが……。……私はこれ以上みなさんと一緒にいれません。本当に楽しかった、それは嘘じゃない……皆さんにありがとうと伝えてください」
「いや、ちょっと待てよ、どうしたんだよ」
話が全く見えて来ない。困惑しながらそう眉を顰めるが、篭手切は顔を歪めてもう一度だけすみませんと繰り返した。
「……きっともう会うことは無いでしょう。りいだあ、あなたをお慕いしておりました。あなたと一緒にれっすんができてよかった」
涙を拭うと、篭手切はそう頭を下げた。俺は呆然としたまま、その姿を見つめている。はらりと俺の手の中から篭手切の腕が抜けていく。
「どうかお元気で」
「っ、おい!」
すぐに追いかけようとするが、すぐに篭手切は姿を消してしまった。
答えは、すぐそこにあったのに。
ああ、桑名の言う通りだった。すぐにでも伝えておけばよかったのだ。
.....いや、いつでも俺は篭手切には追いつけなかった。
せめて、最後、俺もそうだって声を出せばよかったのに。
俺は遠くにある一等星に手を伸ばすばかりで、そのまま終わってしまっていた。
そう篭手切が望むのなら星にでも何でもなりたいと思っていたけれど、そんなことを勝手に想像していただけで。
実際は遠い星を眺めていただけだったのだ。
その小さな背中が見えなくなり、俺は篭手切が渡してくれたカメラを抱えたまま床に膝をついた。
「くそっ……」
どうにもならないような声が、静寂の中に消えていく。
星の灯が、消えた。