星探し
それから俺たちはより一層熱が入ったようにれっすんに励んだ。
新しい曲を篭手切が持ってきたことで他の曲も練習するようになったし、互いに不足してるところを指摘し合えるようにもなっている。
「今のすてっぷ! りいだあ、とても良かったです!」
「おう! ありがとな!」
できることが増えるのは喜ばしいことだ。そうすることで篭手切が笑ってくれるならそれ以上に嬉しいことはないたろう。
篭手切は以前より一層明るい表情を浮かべるようになった。
他のやつらもそれは感じていたのか、以前より熱を上げるようになっている。
そして俺はれっすんの前に、篭手切と食事を取るようになっていた。
彼と会えるのは週に一度きり。それでも一分一秒でも多く話がしたい。そう思っていたら自然と集合は早くなっていた。
……篭手切も同じ気持ちだといい。そう、強く思っている。
「で、豊前はいつ告白するの?」
その言葉に飲んでいた水を噴き出しかけた。
隣のデスクで仕事をしたいたクワが「そんな驚かんで」と俺の背中を擦る。お前のせいだと言わんばかりに視線を向けるとクワはけろりとした顔で「ええ」と不満そうに口にした。
「……そういうのは考えてない」
「篭手切待ってるって」
そう言われても、と手に持ったままだったペットボトルをデスクの上に置く。
頭を掻きながら首を捻るとクワは心底不思議そうに俺を見てきた。
「なんか告白ってなるとなんか違くねーか?」
「何が?」
「なんかこう……距離感の話? 付き合うってなるとまた違う気がすんだよなあ」
お前らともれっすんは一緒にしてるわけだし気まずくなるだろ、とかなんとか色々クワに並べ立てる。
「いや、僕たちなんなら告白してくれたほうがすっきりするから今よりいっそうれっすんに身が入ると思う」
「そういわれてもなぁ……」
ため息を吐きながら椅子の背もたれに背中を預ける。
天井を仰いでしばらくぼーっとしてみる。LED電球が眩しい。
「なんか気になることでもあるの?」
「……」
気になること。……ないといえば嘘になるだろう。
『松井さんも、りいたあに会いたいとおっしゃってました。本当に早く、れっすんに来ていただきたい』
篭手切の優しい声が頭の中で反芻した。
「篭手切、マツのことが好きなんじゃねぇかなってちょっと思ってて」
「そんなわけないやん、それはそれでこれはこれたよ」
呆れたようにクワはいう。
そう言われても、あの篭手切が同じ部署のマツのことをものすごく大事にしていることは見ればわかる。そんなわけないといわれて、そうかとなるほど俺も単純ではない。
「……豊前がそう言うなら豊前のタイミングがあると思うけどさ、あんまり待たせないであげてよ」
誰よりも先を行きたいんでしょ、とクワは俺の背中を数回叩いた。俺は「……そうだな」とだけ返して、また仕事に戻っていく。
親愛と恋は違うのだろう。
それは俺にもわかる。篭手切は件のマツを物凄く大切にしているようだが、それは確かに恋ではなく親愛なのかもしれない。
だからといって、俺に対してはそうではないとは言えないたろう。
俺は篭手切の一番になりたい。そう思うようになったのは、いつからだろうか。
なんというか、随分と我儘だ。自分でもつくづくそう思う。
でもそれでもいい。篭手切は俺にとって輝く星のようなものなのだ。
そんなアイツの手を一番最初に取るのは、俺だったらいいなと、そんなことを思っていた。
……それならば、はやく言ってしまえばよかったのだ。
クワの言う通りだった。そうしたら、少しは何かが変わったのだろうか。
これからずっと俺はそんな気持ちを抱えて生きていくことになる。
疾さが、俺の取り柄だったはずなんだけど。
その日は篭手切と出会って五ヶ月ほどが経った頃だった。
「いつも篭手切が世話になっているようだね」
ついに篭手切がれっすんにマツを連れてきたのだ。
いつもの待ち合わせ場所に腕を組んで篭手切の横に立っていたマツは、にこりと微笑んでそう口にした。
「そっちこそ! 話はいつも篭手切から聞いてるぜ。会えて嬉しいよ」
「僕もだ。篭手切ばかり豊前たちと楽しいことをしているようで羨ましかったんだ」
「す、すみません……」
「いいよ。気にしないで」
マツといる篭手切はやはり少し浮かれている様子で、少し妬けてくる。
それから三振りで飯を食うことになって食堂へ向かった。あの日の篭手切と同じように、マツは「初めて来たな」と呟いた。
「ほんとにお前らここ使わないんだな」
「建物が違うとどうもね」
いつもは二人席だが、今日は四人席に三振りで座る。
それぞれがメニューを選んでくると、いただきますと各々手を合わせて、食事に手を付け始めた。
「ずっと篭手切が見てほしいって言ってたよ」
「恥ずかしいですりいだあ……」
「いつも僕に直接言っているのに可愛い子だね。僕も忙しいんだけどね。一回くらいなんとか篭手切のれっすんの様子を見たくてごねた」
「ごねたのか」
「もう松井さん、冗談ばっかり……」
「フフ」
嘘か本当かわからない話をしながらマツは微笑む。篭手切に負けず劣らずマツも随分と上機嫌だった。
「動画、見せてもらったよ。すごいね。僕にはできそうもない」
「できるよ。やりに来たんだろ?」
「いや、僕は見学」
マツはスープを器用に口に運びながらサラリとそう言った。
え、と俺が素っ頓狂な声を出すとマツは「ね、篭手切」と篭手切の方を見る。
「れっすんしていただけませんかとお願いしたのですが……次いつ来れるかわからないから見学でと……」
しゅんとした様子で篭手切が言う。落ち込まないで、とマツが篭手切の背中を撫でた。
「なんだ勿体ねぇな。1回だけだとしてもやってけばいいのに」
「いいよ。僕撮影係をやるから」
「それは本当に助かるので、是非と言ってしまい……」
篭手切は頭を抱えて机に突っ伏した。マツとれっすんをしたいが、マツの言い分もわかる上に撮影係もほしいという気持ちが篭手切の中では混在しているのだろう。難儀なものだ。
「ま、今日見てやりたくなったら次から混ざればいいよ」
「そうさせてもらうよ」
松井はそう笑うと何も言わずに食事を続けた。
篭手切はしばらく眉を下げていたが、すぐに柔らかい表情になって他愛ない話を続けている。
本当にマツと一緒にいられることが嬉しい様子だった。
……やっぱり、なんか、妬けてくるかも。
飯を食い終わると、それから三振りですたじおへ向かった。
もうそこにはクワたちが集まっており、彼らはマツを見て「あ、例の松井?」と篭手切に聞いている。篭手切は照れ臭そうにしてそれに頷いていた。
……俺といるより楽しそう。いや、まあ仕方ないのかもしれねぇけど。
「じゃあ僕は撮ってるから。みんな頑張って」
すたじおに入り、マツが先ほどの宣言通りそう言うとサミたちは少し不満そうにしていた。
「踊りなよ」
とクワが声をかけても、マツは頑なに首を横に振るだけであった。
しかしこの日の篭手切は本当に熱が入っていた。
それに負けないように俺達もさらに気合が入って、最後の通しはこれまでに一番いい出来だったと思う。
カメラを構えているマツは、優しい表情のまま俺達の事を見つめ続けていた。
「篭手切はこうやって歌って踊るんたね。知れてよかったよ」
「すごいだろ」
「ああ。もちろん豊前、君もね」
残り時間も少なくなってきて、最後にすたじおの掃除をしながらマツとそんな話をしていた。
何もしなくていいと篭手切は彼に言ったのだが、「僕にもさせてくれ」とマツが頼んできたのだ。
彼はモップを動かしながら口を開く。
「君たちが少し羨ましい。……僕もあんな篭手切を側で見れたらいいんだけど」
「お前篭手切と同じ部署じゃん」
「……それでもやっぱりれっすんをしているときの篭手切は楽しそうだから」
俺はよほどいつも一緒にいられる方が羨ましいと思ってしまうのだが……
隣の芝生は青いってやつだろう。多分。しばらく無言でモップがけを続けた。
「ねえ」
それまでずっと微笑んでいたマツが、突然固い声を出した。
どうした、と言う間もなくマツは口を開いた。
「……篭手切のこと、頼んだよ」
そうマツは俺にそう言う。
囁くような小さい声だった。
それから、また一言。彼はぽつりと呟く。
どういうことだと聞くよりも前に、マツはクワたちの方へ行ってしまう。
「カメラ、借りていくね。また今度返すから」
撮影した写真を現像したいんだ、と松井は使っていたカメラを丁寧にケースに仕舞った。
さっきの言葉は、結局最後まで聞くことができなかった。
それから篭手切とマツは連れ立って帰って行った。
俺はいつも通り彼らを入り口まで送ってからも、ずっとマツの言葉を頭の中で反芻していた。
「僕は多分、篭手切の側にはもういてやれないから」
マツはあのとき、こう溢していた。
それからマツがれっすんに顔を出すことは二度と無かった。
新しい曲を篭手切が持ってきたことで他の曲も練習するようになったし、互いに不足してるところを指摘し合えるようにもなっている。
「今のすてっぷ! りいだあ、とても良かったです!」
「おう! ありがとな!」
できることが増えるのは喜ばしいことだ。そうすることで篭手切が笑ってくれるならそれ以上に嬉しいことはないたろう。
篭手切は以前より一層明るい表情を浮かべるようになった。
他のやつらもそれは感じていたのか、以前より熱を上げるようになっている。
そして俺はれっすんの前に、篭手切と食事を取るようになっていた。
彼と会えるのは週に一度きり。それでも一分一秒でも多く話がしたい。そう思っていたら自然と集合は早くなっていた。
……篭手切も同じ気持ちだといい。そう、強く思っている。
「で、豊前はいつ告白するの?」
その言葉に飲んでいた水を噴き出しかけた。
隣のデスクで仕事をしたいたクワが「そんな驚かんで」と俺の背中を擦る。お前のせいだと言わんばかりに視線を向けるとクワはけろりとした顔で「ええ」と不満そうに口にした。
「……そういうのは考えてない」
「篭手切待ってるって」
そう言われても、と手に持ったままだったペットボトルをデスクの上に置く。
頭を掻きながら首を捻るとクワは心底不思議そうに俺を見てきた。
「なんか告白ってなるとなんか違くねーか?」
「何が?」
「なんかこう……距離感の話? 付き合うってなるとまた違う気がすんだよなあ」
お前らともれっすんは一緒にしてるわけだし気まずくなるだろ、とかなんとか色々クワに並べ立てる。
「いや、僕たちなんなら告白してくれたほうがすっきりするから今よりいっそうれっすんに身が入ると思う」
「そういわれてもなぁ……」
ため息を吐きながら椅子の背もたれに背中を預ける。
天井を仰いでしばらくぼーっとしてみる。LED電球が眩しい。
「なんか気になることでもあるの?」
「……」
気になること。……ないといえば嘘になるだろう。
『松井さんも、りいたあに会いたいとおっしゃってました。本当に早く、れっすんに来ていただきたい』
篭手切の優しい声が頭の中で反芻した。
「篭手切、マツのことが好きなんじゃねぇかなってちょっと思ってて」
「そんなわけないやん、それはそれでこれはこれたよ」
呆れたようにクワはいう。
そう言われても、あの篭手切が同じ部署のマツのことをものすごく大事にしていることは見ればわかる。そんなわけないといわれて、そうかとなるほど俺も単純ではない。
「……豊前がそう言うなら豊前のタイミングがあると思うけどさ、あんまり待たせないであげてよ」
誰よりも先を行きたいんでしょ、とクワは俺の背中を数回叩いた。俺は「……そうだな」とだけ返して、また仕事に戻っていく。
親愛と恋は違うのだろう。
それは俺にもわかる。篭手切は件のマツを物凄く大切にしているようだが、それは確かに恋ではなく親愛なのかもしれない。
だからといって、俺に対してはそうではないとは言えないたろう。
俺は篭手切の一番になりたい。そう思うようになったのは、いつからだろうか。
なんというか、随分と我儘だ。自分でもつくづくそう思う。
でもそれでもいい。篭手切は俺にとって輝く星のようなものなのだ。
そんなアイツの手を一番最初に取るのは、俺だったらいいなと、そんなことを思っていた。
……それならば、はやく言ってしまえばよかったのだ。
クワの言う通りだった。そうしたら、少しは何かが変わったのだろうか。
これからずっと俺はそんな気持ちを抱えて生きていくことになる。
疾さが、俺の取り柄だったはずなんだけど。
その日は篭手切と出会って五ヶ月ほどが経った頃だった。
「いつも篭手切が世話になっているようだね」
ついに篭手切がれっすんにマツを連れてきたのだ。
いつもの待ち合わせ場所に腕を組んで篭手切の横に立っていたマツは、にこりと微笑んでそう口にした。
「そっちこそ! 話はいつも篭手切から聞いてるぜ。会えて嬉しいよ」
「僕もだ。篭手切ばかり豊前たちと楽しいことをしているようで羨ましかったんだ」
「す、すみません……」
「いいよ。気にしないで」
マツといる篭手切はやはり少し浮かれている様子で、少し妬けてくる。
それから三振りで飯を食うことになって食堂へ向かった。あの日の篭手切と同じように、マツは「初めて来たな」と呟いた。
「ほんとにお前らここ使わないんだな」
「建物が違うとどうもね」
いつもは二人席だが、今日は四人席に三振りで座る。
それぞれがメニューを選んでくると、いただきますと各々手を合わせて、食事に手を付け始めた。
「ずっと篭手切が見てほしいって言ってたよ」
「恥ずかしいですりいだあ……」
「いつも僕に直接言っているのに可愛い子だね。僕も忙しいんだけどね。一回くらいなんとか篭手切のれっすんの様子を見たくてごねた」
「ごねたのか」
「もう松井さん、冗談ばっかり……」
「フフ」
嘘か本当かわからない話をしながらマツは微笑む。篭手切に負けず劣らずマツも随分と上機嫌だった。
「動画、見せてもらったよ。すごいね。僕にはできそうもない」
「できるよ。やりに来たんだろ?」
「いや、僕は見学」
マツはスープを器用に口に運びながらサラリとそう言った。
え、と俺が素っ頓狂な声を出すとマツは「ね、篭手切」と篭手切の方を見る。
「れっすんしていただけませんかとお願いしたのですが……次いつ来れるかわからないから見学でと……」
しゅんとした様子で篭手切が言う。落ち込まないで、とマツが篭手切の背中を撫でた。
「なんだ勿体ねぇな。1回だけだとしてもやってけばいいのに」
「いいよ。僕撮影係をやるから」
「それは本当に助かるので、是非と言ってしまい……」
篭手切は頭を抱えて机に突っ伏した。マツとれっすんをしたいが、マツの言い分もわかる上に撮影係もほしいという気持ちが篭手切の中では混在しているのだろう。難儀なものだ。
「ま、今日見てやりたくなったら次から混ざればいいよ」
「そうさせてもらうよ」
松井はそう笑うと何も言わずに食事を続けた。
篭手切はしばらく眉を下げていたが、すぐに柔らかい表情になって他愛ない話を続けている。
本当にマツと一緒にいられることが嬉しい様子だった。
……やっぱり、なんか、妬けてくるかも。
飯を食い終わると、それから三振りですたじおへ向かった。
もうそこにはクワたちが集まっており、彼らはマツを見て「あ、例の松井?」と篭手切に聞いている。篭手切は照れ臭そうにしてそれに頷いていた。
……俺といるより楽しそう。いや、まあ仕方ないのかもしれねぇけど。
「じゃあ僕は撮ってるから。みんな頑張って」
すたじおに入り、マツが先ほどの宣言通りそう言うとサミたちは少し不満そうにしていた。
「踊りなよ」
とクワが声をかけても、マツは頑なに首を横に振るだけであった。
しかしこの日の篭手切は本当に熱が入っていた。
それに負けないように俺達もさらに気合が入って、最後の通しはこれまでに一番いい出来だったと思う。
カメラを構えているマツは、優しい表情のまま俺達の事を見つめ続けていた。
「篭手切はこうやって歌って踊るんたね。知れてよかったよ」
「すごいだろ」
「ああ。もちろん豊前、君もね」
残り時間も少なくなってきて、最後にすたじおの掃除をしながらマツとそんな話をしていた。
何もしなくていいと篭手切は彼に言ったのだが、「僕にもさせてくれ」とマツが頼んできたのだ。
彼はモップを動かしながら口を開く。
「君たちが少し羨ましい。……僕もあんな篭手切を側で見れたらいいんだけど」
「お前篭手切と同じ部署じゃん」
「……それでもやっぱりれっすんをしているときの篭手切は楽しそうだから」
俺はよほどいつも一緒にいられる方が羨ましいと思ってしまうのだが……
隣の芝生は青いってやつだろう。多分。しばらく無言でモップがけを続けた。
「ねえ」
それまでずっと微笑んでいたマツが、突然固い声を出した。
どうした、と言う間もなくマツは口を開いた。
「……篭手切のこと、頼んだよ」
そうマツは俺にそう言う。
囁くような小さい声だった。
それから、また一言。彼はぽつりと呟く。
どういうことだと聞くよりも前に、マツはクワたちの方へ行ってしまう。
「カメラ、借りていくね。また今度返すから」
撮影した写真を現像したいんだ、と松井は使っていたカメラを丁寧にケースに仕舞った。
さっきの言葉は、結局最後まで聞くことができなかった。
それから篭手切とマツは連れ立って帰って行った。
俺はいつも通り彼らを入り口まで送ってからも、ずっとマツの言葉を頭の中で反芻していた。
「僕は多分、篭手切の側にはもういてやれないから」
マツはあのとき、こう溢していた。
それからマツがれっすんに顔を出すことは二度と無かった。