星探し

 それから毎週のように俺達五振りはすたじおに集まってれっすんをした。
 最初は皆上手く足が動かなくて、どうにも大変なことになったりもした。手と足が思うように動かなくて揃って爆笑したりもした。そんな日を繰り返し、今では随分と踊れるようになっている……と、思う。
 それから徐々に歌の練習もするようになった。歌いながら踊るというのはなかなか難しい。何度も失敗したが、それでも皆で色々と試行錯誤を重ねる時間は楽しかった。体を動かすのは気持ちいいし、毎週その時間は仕事のいい息抜きになっていた。

「今の!よかったんじゃない!」

 珍しくクモが興奮した様子で声を上げた。
 はじめて一曲通しで終わって、俺たちは肩で息をしながらお互いの顔を見合う。

「どうでしたか、篭手切」

 サミもどこか興奮したように篭手切の方を向いた。
 俺とクワも勢いよく篭手切の方を見る。どんなにいい表情をしているのだろうかと少し期待していたが、篭手切はどこか呆然としたような顔をしていた。

「……篭手切?」

 そう恐る恐る声をかけるも、返事はない。しばらく無言の時間が続く。
 篭手切、ともう一度声をかけると、篭手切はハッとしたように顔を上げて口を開いた。

「す、すみません! あまりにも素敵で……言葉が出なくて……」

 そう呟いたあと、みるみると篭手切の表情は明るくなっていく。
 頬が赤く染まって、丸い目をキラキラと輝かせていた。
 ……なんつーか、正直すげーかわいい。

「録画! 録画見よう! ちゃんと撮れてるかな」

 座り込んでいたクワが立ち上がって、三脚で固定されていたカメラを取りに行く。
 皆でそれを囲んで、今さっきまで自分たちの姿を見返した。篭手切が物凄く緊張した様子でいるから、そっとその肩を叩いて隣に座る。
 動画の中の俺たちはとても楽しそうに曲に合わせて体を動かして歌っている。あの動画サイトに載せられているどこかの本丸の俺たちに比べると、お世辞にもすごく上手いといえるわけではない。
 だけどまるで動画の中の自分は、どうにも自分ではないみたいにも見えた。

「なんか、いいな。すげー楽しそう」
「これ豊前だよ」

 クワが笑いながらそういう。そのまま俺のことを肘で小突いた。

「なんか……、改めて見ると恥ずかしいね」
「素敵ですよ。雲さん」
「雨さんもすっごくかっこいい!」

 サミとクモが肩を寄せ合ってそう照れ臭そうに微笑んでいる。
 篭手切は何か大切なものを見つめるときのように優しい表情を浮かべて、動画を見つめていた。

「皆さんとても素敵です……。ああ、これならきっと楽しんでくれる」

 感慨深そうに篭手切が胸に手を当ててそう呟く。

「松井さん……松井さんも、いてくれるといいんですが」

 それから、少し寂しそうにそう口にした。
 ずっと一振り分だけ立ち位置に隙間があるのだ。
 篭手切が慕っている松井江がいることを知っているから、俺たちは他の松井江を連れてこようとはしなかった。
 いつか彼が来てくれる日が来るといいと、期待し続けているのだ。

「この動画、いただいてもいいですか?」
「もちろん。……でもどうやって送ろう? 連絡先は教えられないんだよね?」

 クワがカメラをいじりながら首を捻る。
 篭手切は自分用の携帯端末を持っていながら、決してその連絡先を俺たちに教えてくれることはなかった。それが規則なのだから仕方がないだろう。

「あ……そう、ですね……」

 篭手切はそう眉を下げる。それを見かねたクワが、そのカメラごと篭手切に渡した。

「持っていっていいよ。松井に見せてあげてね」

 クワは篭手切の頭を撫でながらそう言った。それを受け取った篭手切は大事そうにカメラを腕に抱く。

「ありがとうございます! ……桑名さんの手は大きいですね」

 くすぐったそうに篭手切は微笑む。クワが「愛らしい……」って呟きながらさらにわしゃわしゃとその髪を乱した。
 なんだかモヤモヤしてきて、俺もクワの横から篭手切の頭を撫でる。

「……豊前の顔怖っ」
「心とは複雑なものですね」

 クモとサミがコソコソと話しているのが聞こえる。
 こっそり言ってるつもりかもしれねぇけど丸聞こえたからな。

「もっと頑張ろうな」
「はい! きっともっとよくなります」

 そうしているうちに、惜しくももう解散しなければいけない時間になっていた。
 掃除をクワたちに任せて俺と篭手切は、倉庫に使っていた音楽プレイヤーを戻しに向かう。

「りいだあ、ありがとうございます」

 電池式のプレイヤーを丁寧に棚に戻しながら篭手切はそう零した。
 一歩後ろで篭手切を見守っていた俺は「ん? 何かしたか?」と素直に首を傾げる。

「顕現してからこんなに楽しい日々をすごしたのは初めてです。りいだあがあの日声をかけてくれなかったら、きっと私は一生れっすんをすることもなかった」

 くるりとこちらを振り見て、篭手切は笑った。
 どうにもその顔は、今にも泣いてしまいそうにも見えた。
 どうしてそんなに切ない顔をするのだろう。
 もっと、笑ってるお前の方がずっといいのに。
 そう思いながら思わず彼の体に手を伸ばす。

「り、りいだあ!?」

 咄嗟にその小さな体を抱き寄せると、篭手切は腕の中で上擦った声を出した。やはり彼からは、消毒液の香りがする。密着すると、そのことがよくわかった。

「俺もお前に会えなかったられっすんなんてすることなかったよ」
「……いえ、きっといつか他の私が声をかけていましたよ。りいだあは素敵ですから」

 きっと引く手数多です、と篭手切は言う。そうか? と軽く首を傾げたあと、すぐに抱きしめる腕に力を込めた。

「お前意外とこんなことする気はねぇよ」

 そう呟いてからそっと篭手切から手を離した。
 本当はいつまでもこうしていたかった。だが、そういうわけにもいかない。クワたちを待たせている。

「……行きましょうか」

 篭手切は頬を赤く染めて、俺から目を逸らしながらそう口にした。
 ……どうしよう、やっぱすげーかわいいんやけど……。
 ずっとそんな篭手切を見ていることが目に毒のように思えて、篭手切から視線を外す。
 それから照れ隠しのように頭を掻きながら倉庫を出た。帰り支度を済ませたクワたちが一斉にこちらを見る。

「仕舞えた? じゃあ……よし。雨くん、雲くん、僕達は先に行こうか」
「それが良さそうですね。では、また来週」
「ま、またね!」

 俺たちの顔を見るなり、早々にクワたちはすたじおを出ていってしまう。
 俺たちは顔を見合わせて、すぐに目をそらした。篭手切の茹蛸のように真っ赤に染まった顔を見ているのがなんたか悪い気がして、そのまま俺達も無言ですたじおを出る。
 どんな距離感で歩いていたのかすらわからなくなって、チラチラと横目で篭手切を伺いながら入り口まで歩いた。
 いつもは篭手切となんでも話せるのに、今日に限って言葉が出てこない。

「えっと、それじゃあ……またな」
「はい……また」

 そんな煮え切らない言葉を交わして篭手切を見送った。

 それからすぐに自分の寮の部屋に戻った。
 同室のクワはまだ戻ってきていない。
 それをいいことに、一目散にベットに飛び込んで枕に顔を埋める。
 ……この感情は、一体何というのだろう。
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