星探し

 その日のうちに、「れっすんするから部屋貸してくれねーか」と同じ部署の水心子に頼み込んだ。

 この水心子は少し変わっているやつだ。
 何故かずっと寮の二人部屋に一振りで暮らしているのだ。
 ずっと探している刀がいるのだと、昔教えてくれたことがある。そのためかは知らないが、仕事以外の時間もいつも何かしらの調べものをしているようで彼は常に忙しそうだった。

「どこの篭手切江に誘われたんだ?」

 俺の申し出に、水心子は心底驚いた様な顔をした。「そんなに仲のいい篭手切江がいたのか?」と彼は素直に驚いている。そんなに驚くことか?

「最近仲いい篭手切?」

 ただ説明がしにくい。そう答えると、水心子は怪訝そうな顔をしながらも頷いた。

「……そうか。少し待ってくれ。…………Cスタジオは今使われていない。そこでいいのなら自由に使うといい」
「本当か? やった。ありがとな!」

 すぐに空きを調べてくれた水心子の背中を叩きながらお礼を言う。水心子は驚いたような声を上げたあとすぐに咳払いをして「礼には及ばない」と口にした。

 部屋が見つかったから、それからすぐクワに「篭手切とれっすんするんだけど桑名もどう?」と聞いてみた。人数は多いほうがいいだろう。そっちの方が篭手切も喜ぶ。

「突然だね。とりあえず大地に聞いて見るよ」

 と彼は一回大地に聞いていたが、すぐに「いいよ」と頷いてくれた。

 そんな風にトントン拍子に事が進み、なんだか俺は浮かれたままその週仕事をしていた。クワにも、

「……豊前浮かれすぎじゃない? そんなにれっすんしたかったの?」

 と言われるくらいには浮かれていたらしい。

「そんなに俺わかりやすい?」
「かなり」

 そんなつもりはないんだが。
 ……だがそう見えるなら仕方ない。浮かれてるのは、多分事実だ。


 それから一週間が経ち、約束の日が来た。
 指定した食堂の前に、クワは何故か他所から五月雨と村雲を連れてやってきた。

「いやクワも俺のこと言えないくらい浮かれてるじゃねぇか!」
「新しい季語が欲しいんだって。ね、雨くん」
「はい。なんだか面白いことが始まる予感がしました」

 クワに連れて来られた五月雨がそう胸に手を当てて頷く。
 この二振りは怪異対策課の五月雨と村雲らしい。以前一緒に仕事をしたことがあるのだと桑名は言っていた。
 クワは、なんだかんだでいろんな部署を行き来して今に至っているのだ。

「あ……りいだあ!」

 四振りで話をしていると、そんな声とともにパタパタと軽い足音がしてくる。篭手切が俺を見つけてこちらに走ってきた。

「すみません……。松井さんは仕事が忙しいみたいで、また今度機会があればと」
「そっか。暇なときにいつでも連れてきてくれ。これ、俺と同じ部署のクワ。で、その友達のサミとクモ。一緒にれっすんしてくれるってさ」
「ええ!?」

 また篭手切が驚いたような声をあげる。先週の三倍くらいはでかい声だった。
 「サミとクモ……?」とクモが首を傾げる。なんだよ、いいだろサミとクモ。絵本にありそうで可愛いし。

「で、すたじおも借りられたから。行こうぜ」
「……夢みたいだ……」

 篭手切は感激したままそう口元に手を当てた。口角が上がるのを押さえられずに、それを隠すためか少し俯いている。

「行こうぜ」

 う言って彼の背中を叩く。ずっと篭手切は嬉しそうな表情を浮かべていた。
 それからそんな篭手切を連れて、水心子が使われていないと教えてくれたすたじおに向かった。
 そのすたじおは決して広いわけではなかったが、この人数で使う分には十分だろう。奥の方には小さな倉庫もついていた。ここも好きに使っていいらしい。
 確かに長らく誰にも使われていなかったのか。多少埃っぽい。だが掃除をしたら普通に使えるだろう。

「まずは掃除からだね」

 クワが部屋をぐるりと見渡すとそう頷いた。
 皆で顔を見合わせると、倉庫の中に入っていた掃除道具で最低限の掃除をしていく。
 やがてある程度綺麗になったことを見計らい、俺は篭手切の方を見た。

「……で、れっすんってのはどうやってやるんだ?」
「そう、ですね……皆さんお好きな曲とかはありますか?」

 掃除された部屋の真ん中に五振りで丸くなって座る。
 俺が誘ったはいいものの、れっすんがそもそもなにをするものなのかよくわかっていない。
 多分踊ったりするものなんじゃないかと思ってる。同位体はダンス大会に出てたし。

「音楽かあ……。あんまり聞かないんだよね」
「私達も除霊用の音楽しか聞きませんね」
「ちょっとまってそれ気になる」

 サミとクモが顔を見合わせあって頷いたことに、クワが前のめりで話を広げに行く。俺も気になる。除霊用の音楽って何だ。

「篭手切は? 篭手切のれっすんだからお前の好きな曲でいいんだよ」

 だが除霊用の音楽の謎を解くのは後にして、そう篭手切に話を振る。こういうのはやはり篭手切が一番知っているだろう。除霊の話はまた後日聞く。

「うーん……私もあまり歌ったり踊ったり、という感じの曲は実はあまり聞かなくて……」

 篭手切は眉を下げてそう言った。お恥ずかしながら……と指を太腿の上で組みながら。
 篭手切江はみんな歌ったり踊ったりっていうものに詳しいのかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。まあそういう篭手切が一振りくらいいてもいいだろう。

「そうなのか? じゃあいつもはどんな音楽聞くんだ?」

 もしかしたら彼はあまり音楽を嗜むタイブではないのかもしれない。病院勤務だとそういう機会もないのだろうか。

「今はもっぱら西洋音楽ですね……」
「クラシックですか」
「はい。えっと……仕事中何かと聞く機会があって」

 くらしっく。よくわからねぇ。サミはわかっているようだったから、あとで聞けばわかるだろうか。

「それじゃあみんなでいい感じの曲を見つけるところから始めようか」

 そんな桑名の提案で、初日は曲探しに時間を使うことになった。

 それぞれ端末で、いい感じの曲を探してみる。動画サイトには同位体たちのれっすん動画が何個もあがっていて、それもなかなか参考になった。

「それで結局除霊用の音楽について聞きたいんだけど」
「柔くんが憑かれた日に聞かせてあげるよ」
「ええ……憑かれる予定ないんだけど」
「それでしたらご想像におまかせになってしまいますね」

 ああでもないこうでもないと皆で話し合うこと数時間。
 ようやく選び抜いたものは、至って定番のあいどるそんぐというものだった。

「やっぱり手を出しやすいものからやるべきですよね。私も皆さんも初心者ですから」
「この動画の俺たちみたいに、すごいことできるようになんのかな」

 決め手となったのは同位体のあげていたれっすん動画だった。
 カメラに向かって笑顔を向ける別の篭手切たちの姿を見て、誰かが「これやってみようか」と言い出したのだ。
 この曲の元の動画を調べて、次からはそのダンスを練習することになった。
 その日は曲を探している最中たいそう盛り上がってもう時間が無かったのだ。

「皆さんなら、きっとできますよ」

 篭手切はそう口にする。自分に言い聞かせているようにも聞こえ、俺は篭手切の背中を軽く叩く。

 それからすたじおの片付けと掃除をして、また来週も同じ時間にここでと約束をした。
 そしてその日は解散になった。

 クワたちはこれから飯にいくらしくて俺たちにも一緒に行かないかと誘われた。だが篭手切がもう戻らなければいけないと断ったから、俺も行かないことにした。クワたちとはいつでも行けるから。

 建物の入り口まで送っていくよと言い、篭手切の隣を歩いて廊下を進む。
 篭手切は心底興奮した様子で、俺にさっき皆で見たどこかの本丸の俺たちの動画の話をしていた。

「れっすんを重ねればあれほどまでに一体感が出るんですね、感動しました。私も、私達も……あんな風にできるでしょうか」
「できるよ」
「ああ、早くこの足で踊りたい。……松井さんも、一緒にできるといいんですけど」

 眉を下げた篭手切がそう困ったように笑う。
 松井とはどうも休みがなかなか合わないのだと篭手切は言った。

「同じ仕事をしていますから……やっぱりどちらかが休みのときに自分も休むとなるのは難しいんですよね。今は二振りで同じ仕事をしていて」
「そっか。いつか一緒に来れるといいな」

 それはどうしても仕方がないことだ。いつかマツともできることを願って、他の松井江には声をかけずにマツの場所は空けておこうと言う話をした。

「今日は本当にありがとうございました。楽しかったです。……また、来週」

 篭手切はそう言うと、建物を出て行った。じゃあな、とその背中に俺も言葉をかける。
 俺は手を振りながらその姿が見えなくなってもその場に立っていた。
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