星探し

 俺とその篭手切江が出会ったのは、とある冬の日のことだった。

 いつもはそれほどでもないのだが、その日は時の政府の社員食堂が混み合っていた。全て席を探しながら、どこに座っかなと考えながらうろうろしていたとき。
 ふと目に入ったのが、その篭手切江であった。

「ここ、座っていいか?」

 彼はそのとき二人席に一振りで座っていたから、これは都合がいいと声をかけたのだ。
 初めて見る篭手切江ではあったが、見知った顔の方が声がかけやすい。……まあ、座る場所がなかったら見知らぬ顔であっても声はかけるが。

「……りいだあ!? ……どうぞ、使ってください」

 篭手切は俺に突然話しかけられたことに驚き、そう声を上げた。だがすぐに微笑むと、正面の席を手で示しながら頷いた。遠慮もなく俺はそこに座り、盆を机に置く。

「今日すっげー混んでるな。空いてなくて困ってたから助かる」
「そう、なのですか? 私はあまりここを使う機会が無くて……。でも確かにすごくたくさん人がいますね」

 世間話がてらそう言えば、篭手切はそう眉を下げた。

「俺はいつもここで食べてるから。出てくるのはえーし、美味しいし、楽なんだよな」

 料理とかできねぇから、そう至極真面目に話すと、篭手切はその緊張していた顔を少しだけ緩めた。

「へえ……私は普段この建物で働いているわけではないのでここには初めて来ました。確かに美味しいです。混み合うのも納得ですね」

 篭手切はそう言うと、カレーを口に運びながら俺の方をちらりと見た。俺も手を合わせると卵で閉じられたカツ丼を口に入れる。

「どこの部署の篭手切? 俺は一応総務課? にいる」

 政府顕現の俺は他の豊前江のように本丸に配属になることはなく、時の政府で職員として働いていた。
 政府も人の手じゃないものを借りたいほど万年人手不足なのだ。このご時世こんな危険な職場に志願する人も少ないらしい。

「政府所属なんですか。りいだあはすごいですね」

 俺の所属場所を聞いた篭手切はそう目を丸くする。
 あまりにキラキラした目で見られるものだから、なんだかバツが悪くなって俺は頭を掻く。

「でも、なんだ、俺ちょっと字が多いやつが苦手でさ。……普段本丸からの発注の仲介ばっかしてる」

 一向に書類仕事ができるようにならなくて、いつの間にか備品発注係になっていた。同じ部署の水心子は「豊前江が発注をしないと本丸には物が行き渡らないんだぞ」と励ましてくれるが、なぜ俺が政府刀をしているのか自分でも疑問だった。こういうのは適材適所ってのがあんだろ。
 それを聞いた篭手切は「それも立派なお仕事ですよ」と笑った。

「篭手切は? どこの所属?」

 話を逸らすべくそう首を傾げる。
 問われた篭手切は、「えっと」と少し表情を固くして俺から視線をそらした。

「私は、えっと……病院で、働いています」

 篭手切があまりにも言いにくそうにそれを言うもんだから、俺はこてんと首を傾げた。それをどうしてそんな後ろめたいことのように言うのだろう。立派な仕事だというのに。

「聞いたことあるよ。政府管轄の審神者専用だったり刀剣男士専用の病院があるんだろ? お前そういうとこで働いてんの?」
「そんなところです」
「すげぇな。それこそ立派な仕事じゃねぇか」

 俺なんかよりよっぽど、そう口にすると「そうでしょうか」と篭手切が呟く。
 確かにこの篭手切からは微かに消毒液の香りがしていた。
 しかし彼はすぐに話を逸らそうとしているのか次の話題に移ってしまう。まあこいつにも色々苦労があるんだろうなとか思いながら、俺は篭手切と話しながら食事を続けた。

 初めて会った篭手切だとは思えないくらい、話は盛り上がった。
 俺の休憩時間いっぱいに他愛もない話をして、篭手切に別れを告げる。

「じゃあ、またどこかで」
「はい。本日はありがとうございました」

 もしかしたら彼とはもう会うこともないのかもしれないとぼんやり思いながら手を振る。

 また会えっかな。そう、思いはしたが。あまり期待はしていなかった。
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