忘れ物を探す夜
僕はかつて、主に売られて政府の人に買い取られた。
僕たちの主は明るい青年だった。しかしある日生まれ故郷である現世に帰省をして、それから彼は帰ってこなかった。数ヶ月後には僕たちは彼に売られたと知らされた。皆バラバラの場所へ行くこととなって、僕の親友であった清麿とは、それきり会っていない。
清麿は最後すごく思い詰めたような顔をしていた。どこに行くのだとは、聞けなかった。でもきっと良くないところにいくのだということはわかった。なのに僕は、何もできなかった。僕はそれをずっと後悔している。
だからここで働き始めてからずっと、彼のことを探している。
ずっと欠けている、僕の半身を。
……だがここ数年は、諦めがついてしまった。
もしかしたらどこかの本丸で幸せに過ごしているのかもしれないと思い始めていた。
それなのに、僕は直胤が来る前から部屋に一振り分のスペースを空けている。直胤が来た今も、僕たちは今三人用の部屋に二振りで暮らしていた。
件の豊前江と話をするべく、彼らの部屋に向かう。チャイムを押して、「豊前江、いるだろうか。少し話がしたい」と素直に口にした。。
彼は、数年前……ちょうど四年ほど前だろうか。至る所でとある篭手切江の行方を追っていた。僕もその時は、清麿の行方を真剣に探していたところだった。だから、話を聞いたことがある。月日が経って、僕も彼も、多少の諦めを見せてしまっていたが。
「んー……なあに。豊前、お客さんだよお」
扉を開けて出てきたのは、彼と同室の桑名江であった。眠たそうな目を擦って、僕たちを中に入れてくれる。
「夜遅くにごめんねー。ちょっと……かなり? 大変なものを見つけてしまって……」
「何? 豊前が書類に珈琲こぼしてた?」
「流石にもうそんなことしない」
寝る準備をしていたところであったらしい豊前江が、そう言いながら桑名の背中を小突く。僕たちは桑名に促されて小さなテーブル前に腰をかける。「これなんだけど……」と直胤はスッと録音機をテーブルに乗せた。
「ん? なんだこれ」
「録音機かなあ?」
物珍しそうに二振りはそれをじろじろと見つめている。
「直胤がCスタジオで見つけた。中に入っている音声に、心当たりはないだろうか」
二振りは「録音機なんて知らねぇけど」「使ったこともあんまりないよねえ」と顔を見合わせて首を傾げた。
今からあの音声を聞かせることは、正直心苦しい。しかし、きっとこれは彼らに関係しているものだろう。聞かせなくては、不誠実だろう。
「……流しちゃう?」
直胤がこちらに視線を向けてくる。ああ、そう軽く頷いて再生するよう直胤を促す。
「ひとまず聞いてくれ」
僕のその言葉のあとすぐに直胤が再生ボタンを押した。先ほどと同じ音声が流れ出す。
豊前江と桑名江は、その音声が始まるや否や露骨に顔を顰めた。……それもそのはずだ。これは、おそらく彼に向けて録られた音声なのだから。
「……なんだよこれ」
ポツリと豊前江が呟いた。桑名江も無言のままじっとその録音機を見つめている。
「……あのスタジオを使っていたのはあなたたちだけだ。それからずっと、直胤がこれを見つけるまで、誰もあそこは使っていない」
眉間に皺を寄せて、豊前江は息を吐く。
「どこにあったんだ」
「倉庫の奥……」
豊前江はそれを聞くと、眉間に深く皺を寄せて指をトントン机に叩きつけるように鳴らしていた。しばらくすると、彼は大きなため息を吐いて目を伏せる。
「……そっか。もっと真剣に探してりゃあよかったな」
そしてそう彼はぽつりと呟く。
桑名江が一瞬口を閉ざしかけた。しかしすぐ豊前江の方を見て声を上げる。
「ねえこれ、本当にあの松井の声なの? もしかしたら違うかも……」
「いや……。マツだろ。……でも、うん、そうだな。調べてみねぇとハッキリはしねぇか……」
豊前江たちはそう言うとすっかり黙り込んでしまった。何と言葉をかければいいかわからず、僕も二振りのことを見ながら口を閉ざしてしまった。この音声が正しければ、もしかしたら篭手切江は既に……。
直胤が「あのさ……」と気まずそうに口を開く。
「通報とか、する?」
真っ当な問いだった。きっと直胤はひとりでこの音声を受け入れることができないから僕に相談してくれたのだろう。今すぐにこれは通報して、しかるべき機関に調べてもらうべきだ。……だけど、どうしても、あの清麿の情報だけがずっと引っかかっている。
だから、僕はそれに首を横に振った。ああ、なんて僕は我儘なんだろう。僕のためには、この音声が必要だった。
「……調べたいことがあるんだ。直胤も、協力してくれないだろうか」
そう三振りを見てそう口にすれば、彼らは静かに頷いてくれた。
僕たちの主は明るい青年だった。しかしある日生まれ故郷である現世に帰省をして、それから彼は帰ってこなかった。数ヶ月後には僕たちは彼に売られたと知らされた。皆バラバラの場所へ行くこととなって、僕の親友であった清麿とは、それきり会っていない。
清麿は最後すごく思い詰めたような顔をしていた。どこに行くのだとは、聞けなかった。でもきっと良くないところにいくのだということはわかった。なのに僕は、何もできなかった。僕はそれをずっと後悔している。
だからここで働き始めてからずっと、彼のことを探している。
ずっと欠けている、僕の半身を。
……だがここ数年は、諦めがついてしまった。
もしかしたらどこかの本丸で幸せに過ごしているのかもしれないと思い始めていた。
それなのに、僕は直胤が来る前から部屋に一振り分のスペースを空けている。直胤が来た今も、僕たちは今三人用の部屋に二振りで暮らしていた。
件の豊前江と話をするべく、彼らの部屋に向かう。チャイムを押して、「豊前江、いるだろうか。少し話がしたい」と素直に口にした。。
彼は、数年前……ちょうど四年ほど前だろうか。至る所でとある篭手切江の行方を追っていた。僕もその時は、清麿の行方を真剣に探していたところだった。だから、話を聞いたことがある。月日が経って、僕も彼も、多少の諦めを見せてしまっていたが。
「んー……なあに。豊前、お客さんだよお」
扉を開けて出てきたのは、彼と同室の桑名江であった。眠たそうな目を擦って、僕たちを中に入れてくれる。
「夜遅くにごめんねー。ちょっと……かなり? 大変なものを見つけてしまって……」
「何? 豊前が書類に珈琲こぼしてた?」
「流石にもうそんなことしない」
寝る準備をしていたところであったらしい豊前江が、そう言いながら桑名の背中を小突く。僕たちは桑名に促されて小さなテーブル前に腰をかける。「これなんだけど……」と直胤はスッと録音機をテーブルに乗せた。
「ん? なんだこれ」
「録音機かなあ?」
物珍しそうに二振りはそれをじろじろと見つめている。
「直胤がCスタジオで見つけた。中に入っている音声に、心当たりはないだろうか」
二振りは「録音機なんて知らねぇけど」「使ったこともあんまりないよねえ」と顔を見合わせて首を傾げた。
今からあの音声を聞かせることは、正直心苦しい。しかし、きっとこれは彼らに関係しているものだろう。聞かせなくては、不誠実だろう。
「……流しちゃう?」
直胤がこちらに視線を向けてくる。ああ、そう軽く頷いて再生するよう直胤を促す。
「ひとまず聞いてくれ」
僕のその言葉のあとすぐに直胤が再生ボタンを押した。先ほどと同じ音声が流れ出す。
豊前江と桑名江は、その音声が始まるや否や露骨に顔を顰めた。……それもそのはずだ。これは、おそらく彼に向けて録られた音声なのだから。
「……なんだよこれ」
ポツリと豊前江が呟いた。桑名江も無言のままじっとその録音機を見つめている。
「……あのスタジオを使っていたのはあなたたちだけだ。それからずっと、直胤がこれを見つけるまで、誰もあそこは使っていない」
眉間に皺を寄せて、豊前江は息を吐く。
「どこにあったんだ」
「倉庫の奥……」
豊前江はそれを聞くと、眉間に深く皺を寄せて指をトントン机に叩きつけるように鳴らしていた。しばらくすると、彼は大きなため息を吐いて目を伏せる。
「……そっか。もっと真剣に探してりゃあよかったな」
そしてそう彼はぽつりと呟く。
桑名江が一瞬口を閉ざしかけた。しかしすぐ豊前江の方を見て声を上げる。
「ねえこれ、本当にあの松井の声なの? もしかしたら違うかも……」
「いや……。マツだろ。……でも、うん、そうだな。調べてみねぇとハッキリはしねぇか……」
豊前江たちはそう言うとすっかり黙り込んでしまった。何と言葉をかければいいかわからず、僕も二振りのことを見ながら口を閉ざしてしまった。この音声が正しければ、もしかしたら篭手切江は既に……。
直胤が「あのさ……」と気まずそうに口を開く。
「通報とか、する?」
真っ当な問いだった。きっと直胤はひとりでこの音声を受け入れることができないから僕に相談してくれたのだろう。今すぐにこれは通報して、しかるべき機関に調べてもらうべきだ。……だけど、どうしても、あの清麿の情報だけがずっと引っかかっている。
だから、僕はそれに首を横に振った。ああ、なんて僕は我儘なんだろう。僕のためには、この音声が必要だった。
「……調べたいことがあるんだ。直胤も、協力してくれないだろうか」
そう三振りを見てそう口にすれば、彼らは静かに頷いてくれた。