管理番号参壱七番山姥切長義の追憶 弍

 彼女はひとまずあの猫殺しくんたちに引き渡すことになるらしい。久しぶりに彼に会った時に、猫殺しくん直々にそう言われた。

「苦しい思いをさせてしまってすまなかったね。……もうすぐお別れだよ」

 ベッドの上で静かに眠っている彼女にそう声をかける。時が過ぎるのは早いもので、もう明日には彼女を引き渡すことになっていた。
 実験をやらなくなってから数日経ち、彼女の顔色は少しずつ良くなってきていた。少なくとも以前より苦しそうな表情を浮かべることは少なくなっているように思える。

「まず審神者になる時には始まりの一振りという刀を選ぶそうだよ。君は誰を選ぶのかな。……山姥切国広だったら、少し妬くかも」

 骨ばっている頬に優しく触れる。眠っている彼女が何かを返してくるわけではないけれど。

「……戦の将、君は向いていなさそうだ」

 彼女の目の下のくまに指を滑らせる。初めて彼女と出会った時、この子はどんな顔をしていたっけ。それすらも思い出せない。いや、俺が目を背けていたからだ。彼女をしっかり見ようともせず、目を背け続けて。その結果がこれだ。初めから彼女と向き合うことができていたのならば、彼女をここまで追い詰めずに済んだのだろうか。

「ちょうぎ……?」

 ぴくりと彼女の瞼が動いた。まだ眠たそうにとろんとした彼女の瞼が、薄く開かれる。

「……ふふっ……変なの……」

 彼女がゆっくりとこちらに手を伸ばしてくる。伸びてきた手が、ぽすりと俺の頭に触れた。

「どうして泣いてるの?」

 そう言われて、ハッと自分の頬に触れる。確かに、指に温かい水滴が伝わってきた。それを拭うと、「さあ……」と曖昧に首を振る。彼女の手に触れると、そっと俺の頬に寄せた。
 彼女の手は温かかった。いや、体温は低いけれど、そういうことではなく……とにかく、すごく温かい。

「……嬉しいことがあっただけだよ」

 必死に笑みを浮かべてみたけれど、自分がどんな表情をしているのかはわからないままだった。
 それはよかった、彼女はそう嬉しそうに微笑んだ。
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