管理番号参壱七番山姥切長義の追憶 弍
宝石についての本を読んだ。ほんの出来心だった。
最近は実験の頻度が減っていて、負担が減ったからか彼女が起きている時間も増えていた。
「……宝石、宝石についての本。何かあったら読みたいの」
そう彼女が言うものだから用意してあげたはいいものの、本を読むほどの体力が戻ったわけではない。だが用意したものを放置しておくのも何だか勿体無く感じてしまい、眠ってしまった彼女の横で俺がそれを読んでいた。
「タンザナイトの石言葉は……、『高貴』、『知性』……」
その本には、宝石の写真や解説のほかに石言葉というものが書いてあった。
宝石にはそれぞれ石言葉というものがつけられているらしい。俺はそんなこと知らなかったが、もしかしたら彼女はこれが知りたかったのかもしれない。自分がタンザナイトと呼ばれている所以を。もっとも、源清麿がそんなことを知って呼び名を決めていたのかはわからないが。
『タンザナイトの石言葉一覧』と言う項目を読みながら、俺は自然と手を止めた。
「希望……」
そこには、はっきりとそう書いてあった。
源清麿はこれを知っていてこの名で彼女を呼んでいるのか。口から乾いた笑い声が溢れた。こんなの、とんだ皮肉じゃないか。
「……長義? 何か、いいことでも書いてあった……?」
下からそうか細い声が聞こえてきて、本から視線を外す。いつの間に起きていたのか、彼女がこちらを見つめていた。
「宝石というものは綺麗だなと思ってね」
彼女にこれを見せることは少し憚られた。本をそっと閉じて、ベッドの上の彼女からは手の届かないところに置いてしまう。
このことを、彼女が知ったらどう思うのだろうか。それは、あまり考えたくはなかった。
「……どうしたの」
彼女の細腕がこちらに伸びてくる。俺の手を軽く掴むと、彼女は俺の顔を見たままゆっくりと瞬きをした。
「……いや」
「……そう」
いつも通り彼女はすぐに引き下がる。俺からパッと手を離すが、彼女はぼんやりと笑っていた。はたとその手が白い布団に投げ出される。
「いいことがあったのね」
そう目を閉じると、そのまま彼女は呟いた。心なしか彼女はいつもより安堵したような表情を浮かべている。その顔を見つめて、椅子に座り直した。点滴からポタポタと輸液が一定間隔で滴り落ちている。すっかり聞き飽きたその音を聞きながら、彼女の頬に触れた。
「……ああ。そうだよ」
まだ彼女には何も言えないけれど、きっといいことだ。いいことのはずだ。彼女は規則的な呼吸音を立てながらしばらくぼんやりとしていた。
「また来るよ。おやすみ」
顔を近付けて、彼女の薄い手のひらに口付けを落とす。彼女は何も言わなかった。
最近は実験の頻度が減っていて、負担が減ったからか彼女が起きている時間も増えていた。
「……宝石、宝石についての本。何かあったら読みたいの」
そう彼女が言うものだから用意してあげたはいいものの、本を読むほどの体力が戻ったわけではない。だが用意したものを放置しておくのも何だか勿体無く感じてしまい、眠ってしまった彼女の横で俺がそれを読んでいた。
「タンザナイトの石言葉は……、『高貴』、『知性』……」
その本には、宝石の写真や解説のほかに石言葉というものが書いてあった。
宝石にはそれぞれ石言葉というものがつけられているらしい。俺はそんなこと知らなかったが、もしかしたら彼女はこれが知りたかったのかもしれない。自分がタンザナイトと呼ばれている所以を。もっとも、源清麿がそんなことを知って呼び名を決めていたのかはわからないが。
『タンザナイトの石言葉一覧』と言う項目を読みながら、俺は自然と手を止めた。
「希望……」
そこには、はっきりとそう書いてあった。
源清麿はこれを知っていてこの名で彼女を呼んでいるのか。口から乾いた笑い声が溢れた。こんなの、とんだ皮肉じゃないか。
「……長義? 何か、いいことでも書いてあった……?」
下からそうか細い声が聞こえてきて、本から視線を外す。いつの間に起きていたのか、彼女がこちらを見つめていた。
「宝石というものは綺麗だなと思ってね」
彼女にこれを見せることは少し憚られた。本をそっと閉じて、ベッドの上の彼女からは手の届かないところに置いてしまう。
このことを、彼女が知ったらどう思うのだろうか。それは、あまり考えたくはなかった。
「……どうしたの」
彼女の細腕がこちらに伸びてくる。俺の手を軽く掴むと、彼女は俺の顔を見たままゆっくりと瞬きをした。
「……いや」
「……そう」
いつも通り彼女はすぐに引き下がる。俺からパッと手を離すが、彼女はぼんやりと笑っていた。はたとその手が白い布団に投げ出される。
「いいことがあったのね」
そう目を閉じると、そのまま彼女は呟いた。心なしか彼女はいつもより安堵したような表情を浮かべている。その顔を見つめて、椅子に座り直した。点滴からポタポタと輸液が一定間隔で滴り落ちている。すっかり聞き飽きたその音を聞きながら、彼女の頬に触れた。
「……ああ。そうだよ」
まだ彼女には何も言えないけれど、きっといいことだ。いいことのはずだ。彼女は規則的な呼吸音を立てながらしばらくぼんやりとしていた。
「また来るよ。おやすみ」
顔を近付けて、彼女の薄い手のひらに口付けを落とす。彼女は何も言わなかった。