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炎の中に想いを託して

 出陣の命令が下った。
 鯰尾たちはそのために時空転移装置が置いてある中庭に集まっていた。そんな彼らの前に現れたこんのすけが、「知っていたり知っていなかったりすると思いますが、出陣していただくのは1615年……皆様は慶長20年と言った方がわかりやすいですかね。その大阪です」と淡々と告げた。
 鯰尾は即座に共に召集されていた骨喰と一期と顔を見合わせる。わからないわけがない。彼らはそこで燃えたのだ。豊臣家の滅亡とともに、そこで炎に包まれたのだ。
「……それが命令なら、行ってくるしかないよね。……いち兄、骨喰」
 骨喰が「ああ」と渇いた声で呟いた。一期も何も言わず首肯する。
「隊長は鯰尾様、あなたにお願いします」
「えぇっ! おれぇ!? いいけど……」
 こんのすけから隊長に指名された鯰尾は、自分を指差して驚いた表情を見せる。出陣命令が送られてきたときには誰が隊長かまでは書かれていなかった。
 嫌な役割を押し付けましたね、とこんのすけは内心審神者を恨んだ。
「そうと決まれば早く行きますよ。いいですね?」
「ああ。俺はいつでも大丈夫だ」
 彼らと共に出陣することになっている宗三左文字と蜂須賀虎徹が互いに顔を見合わせて言う。同じく出陣する小夜左文字はこくりと無言で頷いた。
「……じゃあ、行きましょうか」
 鯰尾が時空転移装置に手をかける。既に画面には出陣する年と場所が表示されてある。
「主によろしくお願いしますね。出陣してきまーす!」
 こんのすけの方を一瞥して、鯰尾は笑いながら片手を上げた。そのまま反対の手で、出陣するためのボタンを押した。装置が動き始める。一瞬あたりが光に包まれて、目の前の景色が変わっていった。


 ついたところは街の中では無く、何もない平地だった。砂埃と、どこからか火薬の匂いが辺りに広がっていた。遠くに町が見える。辺りには何もないが、なんだか懐かしい景色な気がする。鯰尾は辺りを見渡しながらそんなことを思う。
「ここが……」
「……いい天気だね」
 一期がポツリと呟く。
 今は嵐の前の静けさのように、大阪の街は静かだった。もうしばらくすればこの街は燃えてしまうというのに。
「早く時間遡行軍を見つけて倒してしまいましょう。歴史が変わってしまう前に」
 複雑な思いを抱えて物思いに耽っている三振りに、宗三が強めに告げる。鯰尾が頷くと、「うーんと」と腕を組んで首を捻った。
「時間遡行軍がどこにいるのか見つけないいけませんね。二手に分かれますか?」
 鯰尾がそう提案する。「いいんじゃないかな」と蜂須賀が頷いて、どう分かれるか一同が話し合い始めようとしたその時だった。
 ハッとした様子で、小夜が腰の本体に手をかける。
「その必要はないみたいですよ」
 耳を澄ますと、確かに微かに刀の音と誰かが息を顰める声が聞こえてくる。まだあまり出陣を経験したわけではないが、確かにわかる。時間遡行軍の気配だ。
「敵の方からお出ましなんて、俺たちって案外運がいいのかもしれないですね!」
 物陰から時間遡行軍が姿を現す。一同は即座に表情を変えて、刀を抜いた。
「戦闘、始めます!」
 鯰尾の掛け声と共に、こちらに刀を振るってくる敵に対して、彼らも刀を向けた。

 彼らは、いつもこうして歴史を守っている。
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