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炎の中に想いを託して

 外から騒がしい声が聞こえてくる。あっという間に、夜が来て朝が来て、新しい一日が始まっていた。息を吐いている暇すらない。
 昨日今日で刀剣男士が何振りも増えた。もう静かなのは夜くらいだった。審神者は静かな方が好きなんだけどなあ、と思ったりもした。そのくらいで文句は言わないが。
 もうすぐ誰かが夕飯に呼びに来るだろうか。そう思いながら、彼女はノートを開いてペンを走らせる。


一気に刀剣男士が増えた。その分出費も目立っているのだが、大阪城の地下から小判を大量に持って帰ってきてくれたおかげで別にお金には困っていない。なんで大阪城の地下からお金が出てくるんだろう。それって脱税とかにならないのかな。
今のところ大阪城の地下をひたすら歩き続ける以外のことをさせている覚えがないのだが、これで本当に歴史を守っていると言えるのだろうか。歴史を守るって何だろう。歴史の勉強なんてほとんどしてこなかったからわからない。学がなくて恥ずかしい気持ちになる。勉強しなきゃとか思うけど、そうするほどの余裕もない。それ以外のことを、まずは生活のことをすることに必死なのに。わからないとも大きな声で言えないし、どうしたらいいんだろう。


 そこまで書くとそっとノートを閉じる。まださほど日数が経っていないのにも関わらず書き込みは多い。一人でいる時はこのノートに日記を書くか、新しく知ったことをメモとかをするくらいしかやることがないのだ。
「失礼する」
 その時、扉が軽く叩かれた。続けて「開けてもいいだろうか?」と声がする。
「どうぞ」
 彼女はそう頷いて、そちらの方に視線を向ける。骨喰がゆっくりとドアノブを掴んだままそこに立っていた。
「もうすぐ夕飯の時間だ。降りてきてくれ」
「うん。わかった」
 そういえば彼とはほとんど話したことがない、と今審神者は気が付いた。そもそも彼女は積極的な方ではない。話しかけてくれるような刀剣男士とはそれなりに話すが、骨喰はそういう性格でもない。今朝から彼に近侍を任せていて、ようやく一対一で話をしたくらいだ。
 行こうか、と声をかけて彼女は骨喰を連れて部屋の外に出る。
「……どうかしたのか?」
「いや……あんまり骨喰と話したことなかったかなって」
 また無言のまま階段を降りた。話すことがない。
「いつも出陣してくれてありがとう」
「それが俺たちの任務だからな」
 再度無言で廊下を歩く。本丸が広いから、大広間までは結構時間がかかるのだ。
「俺には記憶がないんだ」
 なんともないことのように骨喰は口にする。ちらりとそちらを一瞥して、彼女は「そう」とそれだけ呟いた。
「出陣先には俺の記憶があるかもしれない」
 それにやるべきことならやるだけだ、と彼は何かを思っている様子で言う。
「……それなら、頑張ろう。私も頑張るよ」
 そう微笑むと、審神者は体の後ろで組んだ指を優しく撫でた。
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