炎の中に想いを託して

 大阪城に部隊を出陣させてから数時間。
 審神者の端末に彼らが帰城したという通知が入った。
 彼女は書類を書いていた手を止めると、伸びをして立ち上がった。執務室を出て、彼女は転移装置がある庭へと向かう。
 大量の資材を抱えた一同が何やら楽しそうに話しながらそこに立っていた。審神者の姿を見ると「下がれそうなとこまで下がってきました」と小判箱を両手いっぱいに抱えた鯰尾は笑う。

「おかえり。怪我はない?」
「ああ、まだ資材が十分にあるわけじゃないからね。手入れが必要になるようなところまでは行かないようにしていたよ」

 審神者の問いに歌仙がそう返す。なら良かった、と彼女は頷く。
 彼の言うとおり、この本丸には資材がまだ十分にあるわけではない。手入れをするのにも資材を必要とするため、今は確実に無傷で帰って来れるところまでしか行かない方がいい。それは最初から彼らと審神者が話し合っていたことだ。

「それより! 主! ほらこれ見てください!」

 突然ふたりの間に割り込んできた鯰尾は、腕に大量の刀を抱えていた。大坂城から持ち帰ってきたのだろう。

「うわ……すごいたくさん……」
「あるじさーんっ、顕現してもいいよね?」

 彼らと共に出陣していた乱藤四郎が鯰尾の後ろから顔を出してそう首を傾げた。彼女は微笑んだまま「うん、もちろん」と口にした。

(これ全部か……)

 そう内心思っているが、それを口に出すことはしない。審神者は遠慮がちな性格だった。

「ここでライフハックですが」
「うわびっくりした」

 そのとき、鯰尾の抱えている刀の上にちょこんとこんのすけが突如として現れた。

「同じ刀は習合や連結と言う形で強化に使うことができます。例えばこれ、鯰尾藤四郎ですね。こういうすでに顕現している刀は習合や連結をされるのがよろしいかと」

 ライフハックではなくただのシステムの説明ではないか。彼女はぼんやりそう思うが、やはり何も言わなかった。

「じゃあ……まだ顕現してないのだけ顕現すればいいってこと?」
「そう言うことです」
「わかった。じゃあそうしよう」

 彼女はそう言うと、彼の抱えていた刀をそのまま受け取った。重い。鯰尾が軽々と持っているからそんなに重いものだとは思っておらず、審神者は一瞬よろめく。

「もう一回行って来ていいですか?」

 鯰尾の後ろから堀川がそう審神者に問いかける。彼の声はすごく生き生きとしていた。
 その様子だと、例の兼さんとやらはまだ手に入っていないらしい。

「えーまた潜るのか? あそこ同じ景色ばっかで飽きるんだよなー」

 同じく彼らと共に出陣していた愛染国俊が不服そうな声で堀川に言っている。彼にとっては大阪城は退屈な場所らしい。

「僕は兼さんを見つけなければいけないので……」
「俺たちが弟たちばっか拾って来ちゃってごめんなさいって」
「いえ、兼さんが見つかるまで回り続ければいいんです」

 堀川はニコニコしながらそう言った。「そうですよ。頑張ってぐるぐるしましょう」と鯰尾が堀川の肩を叩きながら口にする。鯰尾にとっては大阪城は別に苦ではないらしい。
 彼らはあーだこーだと喋りだして、審神者は刀を抱えたままこの場をどう収めるかと少し困り始める。

「その前に昼食を食べるよ。その後に新しい刀剣男士を顕現して、そしたらまた出陣しよう」

 そんな審神者の様子に気がついたのか、ぱんと手を打って歌仙が彼らにそう声をかける。「それでいいね?」と話を振られた審神者はこくりと頷く。
 はーい、と皆も口々に頷き、本丸の中に戻って行った。

「腹減ったなー」
「お昼はなんだろうね?」

 審神者も一旦自室に戻るべくゆっくりと歩き始める。重いけれど、歩けないほどではなかった。
 途中堀川が「中まで運びましょうか?」と声をかけてきたけれど、そこまで困っていないため断った。堀川も手に資材を抱えていた。
 審神者も歩きながらお昼ご飯はなんだろうかと考え始める。出陣していなかった刀剣男士たちがお昼の準備をしているはずだ。
 本丸の中に入り、一旦執務室に戻り抱えていた刀を置いた。審神者は小さく息を吐く。

「絶対今日中に兼さんを主さんに紹介しますからね!」
「今日中は……うん、まあ善処しようね」

 そう言いながら置かれた資材の量の多さに、審神者は苦笑した。早く倉庫をなんとかしなければ、と彼女はぼんやりと思う。

「置いときますねー」

 ドン、と鯰尾が床に小判を置く。

(……これ、日本円だといくらなんだろう……)

 審神者は咄嗟にそう思って、すぐに考えるのをやめた。こんなこと考えても仕方がない。
 そんなことを考えている間に、堀川と歌仙が部屋から出て行く。それを見て、慌てて審神者は彼らの後に続いた。
 残された審神者の方を見て、鯰尾は「ほら、主も行きましょうよ」と声をかける。彼女は首肯すると歩き出した。
 彼女たちが部屋を出ると、そこに真っ直ぐに人影が立っていた。審神者がハッとおどろいてそちらを見ると、そこには骨喰がいる。

「骨喰? どうしたの?」

 その姿を見て、鯰尾が首を傾げる。
 骨喰藤四郎、彼も鯰尾たちと共に出陣していた刀剣男士である。彼は何やらぼんやりとした様子で入り口付近に立っていた。

「……兄弟がいつまでも来ないから待っていただけだ。行こう」

 骨喰はそう口にすると、広間に向かって歩き出した。鯰尾は彼に駆け寄ると、トンとその背中を叩く。

「あーお腹減ったなあ。まだ食べたことがないものだといいなー」

 並んで歩き出す鯰尾と骨喰を見つめから、一歩遅れて審神者も歩き出した。
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