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第3章 2013.10.05~朝日~




 ― 昨日は朝から変やった。学校を遅刻したんで心配してたら、その次の休み時間で髪の毛をバッサリ切って教室に飛び込んできたんや。……なんか、髪の毛に関しては軽ーく流しとったけどな。そしたら「このままだと今夜、みんな死ぬ」って言い出すもんやから驚いたのなんのってな。話を聞けば、ティアマト彗星が二つに割れて落ちるとか。糸守湖は千年以上前にできた隕石湖やって知ってた俺はお前の町民避難計画に乗った。俺が爆薬で変電所を爆破し、早耶香が電波ジャックして、三葉は町長を説得することにしたんや。けど、その時は町長には信じてもらえんかったらしくて落ち込んで帰ってきよった。んで、急に自転車貸してくれって言ってどっかに行ってまったんや。仕方がないから俺は含水爆薬用意して変電所向かったんや。そこに偶然三葉も戻ってきてて。なんか俺の自転車壊したらしいけど、んなことはあの状況でどうでも良かったな。変電所をぶっ飛ばして、神社に向かって避難を呼び掛けるも、とても避難させきれないと感じて、三葉を役場に向かわせた。―



 「俺が言えるのはそれだけや。俺がお前を見ていない間、お前が何をしとったか俺はわからん。ただ三葉、お前、相当辛いものを抱え込んどるんやないか?」

 あえて疑問形にした。無駄かもしれないのは分かっている。でも、なんとかして「三葉」の記憶を引き出すことはできないだろうか。そう考えたゆえの言葉だった。

 「言っとったやろ。『あの人の名前が、思い出せん』ってな。」


 早耶香も、四葉も、一葉も、松本らも、三葉が起きたのに気づいていつの間にか来ていた俊樹も、黙って勅使河原の話に耳を傾けた。三葉はただ、表情一つ変えずに勅使河原の目を見て、聞いた。

 三葉は聞き終えると俯くように目を逸らし、少ししてからゆっくりと口を開いた。

 「ありがとう、テッシー。だけどごめん。ほとんど……。」

 「…………そうか。」

 「それと……松本くんたちも、せっかく謝りにきてくれたのに……ごめん」

 「三葉が謝ってどうするんよ」

 桜が性格上からか、自然とツッコミを入れた。

 「……フフッ……そうやね。」

 「とにかく、俺らを助けてくれてありがとう……。今まで、本当にすまんかった、三葉……。」

 「ええんよ……。」

 三葉は、頭を下げる3人に対し、優しい笑顔をつくって応えた。







 いつの間にか、山からは朝日が差し込み始め、その向こうからヘリコプターのローター音が響いてくる。役場の人が拡声器を使って人々に呼び掛ける。

 『町民のみなさん、おはようございます。先程、自衛隊が私たちの救出に向かっているとの情報が入りました。まもなくヘリコプターが到着となるかと思います。避難の準備をお願いします。……』


 三葉はそっと立ち上がった。その時、まるで希望の光のような朝日が照らした。思わず左手で目を覆い、やって来る自衛隊のヘリコプターを細目で見つめた。


 自分が何をしていたのかは覚えている。糸守のみんなを救うために走り回って、テッシーと変電所に爆弾を仕掛けて。

 だけど、どうして糸守に彗星が落ちるってわかったのか……

 全部、「忘れて」しまっている……。


 私は何を忘れたの?何を失ったの?何を……

 問いかければ問いかけるほど、やりきれない喪失感が、私の心を支配してゆくのだった……。




 その右手に、三つの文字が書かれている。それは、誰にも、三葉自身も見ることはなかったが、黒く、力強く書かれ、光を浴びて輝いていた……。







to be continued...
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