カゼマチグサ

 某所廃村にて、芽木檎あり。めこごと読む。芽木檎、祀られたり地廃村なれば、そのさまを見せず。されど村の時めけるほどの民話、数多残れり。

 芽木檎、美なる男子のさましたれど、その四肢は獣のものという。その瞳は空の色せり。月白の髪を持ち、胡粉色の肌せり児村に打出ば、芽木檎なりきとさる。祭祀や飢饉の時によくそのさまを現しきという。

 心優しき心延なりきとさる。農夫何某、幼き頃親亡くせり。一人ありしところ、いつの間にか男子がある。男子、あんたは一人なんどすかと何某に問いたれば、親も親戚もいいひん寂しといらふ。男子、それを聞きて、それならば福訪るようにと祈りて、何某に小枝を与えき。
 何某、忽ち身上良くなりて、ともかくも暮らすべかりきという。幸福であったとさる。
 この話は何某の曾孫より聞きき。

 芽木檎、風を運ぶよりも幸福を与う福のカゼマチであったとさる。なれば、良き風が運ばれ来ずと村人は怒り、おりおり祠を壊しきという。さりとて芽木檎は祟らざりきとさる。
 人がおのづから不幸になり、村廃れきとさる。

 されど某所にておりおり祠ありしが見れり。幼きほど、芽木檎に救われき人やその子孫、他村に祠を作りきとさる。神棚に祀れることもあり。
 芽木檎祀る家、度々美なる男来たりという。常の人のごとく話して笑い、山のごとき山菜を置きておのづから消えしという。芽木檎、人好きゆえに害を与えず、優しきカゼマチなり。

 芽木檎、一対のカゼマチであったとさる。村人祠打ち壊しきほど、消えしという。名は日枇杷ひびわであったとさる。芽木檎と日枇杷を模しき人形すがらに作りし翁ありけれど、昨年亡くなりけり。
5/8ページ
スキ