カゼマチグサ

 某所の海浜付近にて、咲彼姫さくひびめというカゼマチあり。狐の耳に鼠の尾を持ち、右目には風待草の花群れ咲きけり。夕方よりあけぼのにかけ、浜にてそのさまをあらわすなり。
 咲彼姫化けし女、美なれども用心すべし。彼女に魅入られしが果て、神隠しに逢ひ二度と帰らず。

 咲彼姫、銀山にて銀のある方まで風を運ぶがゆえ、某所にて「銀花祭」なる祭りを行う。
 某所の坑夫何某。銀花祭より抜けいで、浜にて凉めれば、美なる女近寄りたり。女、寂しねえかと何某に問いたれば、女房と子がいるすけ寂しねえといらふ。女、それを聞きて笑い、泣きたりという。
 咲彼姫化けし女、定めて寂しねえかと訊く。寂しねえといらふべし。

 咲彼姫、人恋しければ人攫う。海浜なる祠の近くへ暗桜はらいおうの祠を建てしに、忽ち神隠し減りしという民話あり。
 彼女のさま、緒兎姫によく似たりという口伝ありしが、親子なるかはわからず。咲彼姫、児をよく攫ふという。

〇暗桜もカゼマチなれば、後に説明す。

 某氏の言うに、咲彼姫に隠されし児、おりおり村へ戻されしという。されど定めて成人になりており、親のことなど皆忘れたりという。
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