かぜまつのけもの

「おらぁ、あの人間さくれるまんじゅうがうんっと好きなんだあ!」
「な、んなァ、琴和ことわもそう思うべ?」

 枯れ草と荒れた猫じゃらしが風に揺れた。向こうの祠にいるこんは、側にある鉄の棒にぶら下がりながらご機嫌で話している。
 最近、といえば嘘になる。カゼマチになってからずっと。
 うるさい。これが。本当に。

「知らね。おまんじゅうなんて、ちゃんと味わおうと思ったことねえんだもの」

 目をかっ開いていても、その風待草のように真っ赤な瞳は焦点を結んでいない。こっちに話しかけるくせ、遠くを見る。意味がわからない。

「んだあ、もったいね! んなら、おらおめぇの祠さ捧げられとったモン全部食ってい?」
「そりゃやめて」

 祠の上に座って、足をぷらぷらと動かす。こんなことしていたって、対して信仰もしていない人間なら違和感すらないらしい。
 籠をからった人間の女が、私達の眼の前を通る。最近村に入ってきた女だ。この村にないべべを来て道を歩く。

「やめんさい」

 小粒な石っころを投げつけようとする混に言葉を投げれば、口を尖らせて渋々鉄棒の上に座る。
 秋色の空がゆらゆら揺れている。

「あんた、ちゃんとカゼマチん仕事してんの」
「して……るべ」
「してなさそだな」
「してるー!!」

 さっき混が握っていた石っころは、まるでアキアカネのような緩やかな速さで飛んで跳ねた。祠にぷち当たって転がる。

「なにすんの!」
「琴和、おらんこと馬鹿にした! おらぁ馬鹿じゃねえ!」
「馬鹿んなんかしてないわ、私は……」

 向こうから女の悲鳴と轟音が聴こえて、消えた。土砂が崩れたらしい。こんなにもからっとした天気で、雲は穏やかに流れていたのに。

「やったー!」

 無邪気な声が響き渡る。

「混のかち!」

 人っ子一人消えた所でどうってことはない。あの女はそもそも人を騙して生きていて、そのうち縁切りの願いが来れば祟ろうと思っていた。
 でも、別に今消えるための命じゃない。

「……また守れなかった」
「混は琴和がいたらそれでいいんにな〜」

「あだっ」

 呑気な声を出す混に思い切り石ころをぶつけると、小さなそれはしっかりと額に命中し、眼の前にいたうるさい兎は鉄の棒からころんと落下した。
 私はまた、祠の神体である水引の中に戻る。それは風待草の花を模した形のもの。

 秋色の風はまだ揺れている。
 風待草の花はまだ咲かない。
2/2ページ
スキ