かぜまつのけもの

 私達の家は、父と母がいなくなってからすぐに貧しくなった。でも村の人達は親切で、私達二人だけでも幸せに生きていけていた。

 私達の家がなくなってから、新しい人達が権力者になった。その人達は私達みたいな貧しいのを嫌った。石を投げられた。ものを隠された。それでも、幸せだった。

 ある日起きたら、妹がいなかった。
 また勝手にどこかへ行ったんだ、でもこんなに雨が降っているのに、どこに。
 側を見ると、形見のお母さんのべべがなかった。
 嫌な予感がした。

「あ……!」

 走り回って、走り回って、とうとう崖まで来た。崖の向こうの岩にべべが引っかかっていて、あの子はそれをどうにか取ろうとしていて、でもぬかるんだ崖なんて所詮ただの処刑場に過ぎなくて、あの子は。
 そのまま落ちた。

 声なんて出なかった。
 落ちた瞬間、もう無理だと分かっていた。こんな荒れた海に放り出されたら死ぬに決まっている。
 それでも、足は止まらなくて。それでも、腕が伸びて。それでも、最期まで、そばにいたくて。

 崖からまっすぐ海へと落ちた。

 叫ぼうとしたら水が入ってきた。肺の暴れる痛みを知った。息ができない。くるしい。いたい。あのこは、もうどこにもいなくて、でも、この海にいるのはたしかで、
 ああ、
 ごめんなさい。

 あのどこかの国の話のように、私達は泡になって消えるんだ。

 次は、次も、一緒に、しあわせになろうね。

 目を閉じる前に、あの子が見えた気がした。掴んだ。冷たかった。それでも、まだ一緒にいられるなら温度なんてどうでも良くて。抱きしめて。

 ねぇ、幸せだったって言って。
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