小さな恋の物語
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軽やかに教室内に響き渡るチョークの音。
その音についていくように鳴るいくつもの筆記音。
教壇に立つはクラサメ隊長。
0組は只今3限目、魔法講義の真っ只中。
私の席は最前列。黒板に向かってやや左より。本来なら一番講義に集中できる特等席だけれど、教壇上で話す隊長の言葉はすべて右耳から入って左耳から抜けていく。立ち上がって解答をしているクイーンをぼんやりと眺めながら、そういえば「クラサメ隊長はいつもどこか気だるそうに講義をするけれど、実は的確に要点がまとまっていて分かりやすい」と力説されたことを思い出した。誰から聞いたかは忘れてしまったけれど、他のクラスの人だったと思う。自分の事ではないのに何故か自慢げに語っていたその人の顔が思い出せないから、まあつまりそういうことなのだろう。
ちらっと時計を見ると、講義終了まではあと34分。長い。
これだけ集中できない理由は、私の隣にあった。
バレないようにそっと隣の彼…エースを盗み見た。
黒縁の眼鏡をかけて真剣そうに前を見つめる横顔。細い銀色の髪が、窓から差し込む陽の光を反射してきらきらと光っている。
綺麗。思わず頬が緩んでしまう。
エースの彼女になれたなんて今でも夢みたいだ。だって彼女って、つまり大好きな彼のいちばんになれたってことで、そんな偶然めったに無いことで、とどのつまり幸せすぎる。今の私は言うなれば無敵モードで、大抵のマイナスな出来事は流せる自信がある。こういうのを"浮ついている"と言うのだろうか。でも無敵なのだ。なんとでもお言い。
そんなことを考えていたら、いつのまにかこっそり見るつもりがバッチリ見てしまっていた。視線を感じたのかエースが私の方を見る。
それまで黒板に向けられていた眼差しが私だけに向けられた。
私の大好きな彼の目が、黒縁窓の奥から私だけを見つめて微笑んだ。
一気に心臓がどくどくと波打つ。鏡を見なくても顔が熱いのがはっきりとわかる。
吸い込まれそうな白藍色の瞳から目が離せない。
上気だった頭に、伏したまつ毛が長くてお人形みたいだ、なんて感想がぼんやりと浮かんだ。
「ナマエ、どこを見ている」
突然の声に驚きハッと声の方を見る。目の前には鬼の形相のクラサメ隊長がいた。
体感温度が3℃下がった(気がする)。
ひゅっと喉が悲鳴をあげる。
「す、すみません」
「エースばかり見ていないで少しは黒板を見たらお前の成績も上がると思うが」
頭上から降ってくる氷点下の眼差しにぐうの音も出ない。
0組の教室が笑いの渦に包まれる。ナインがやけに野次を飛ばしてくる。「ナインにだけは言われたくない」と抗議すると、トレイがよく通る声で「どんぐりの背比べはやめなさい」と笑った。すかさず「なんだとコラ」とナインの怒号が飛ぶ。
私はいたたまれなくなって顔を赤らめて机に突っ伏した。穴があったら入りたい。妥協策としてなるべく小さくなることにした。無敵モードは解除だ。切実に空気になりたい。
喧嘩腰のナインを強制的に黙らせようとしたのか、隊長のブリザドの詠唱が始まる。
それを頭上で聞いていると、左の耳元でそっと、
「ナマエ、この講義が終わったらな」
優しく、甘く。囁くエースの声がした。
ハッと顔を上げて隣を見ると。彼はもう視線を黒板へと向けていた。
隊長が何事も無かったかのように粛々と講義を再開する。
思わず頬が緩む。よし、と少しだけ気合を入れて未だまっさらなノートを手元に広げる。しゃきっと背すじを伸ばして、黒板に向かい合った。
キミノトナリ。
(ほら、やっぱり無敵モード)
その音についていくように鳴るいくつもの筆記音。
教壇に立つはクラサメ隊長。
0組は只今3限目、魔法講義の真っ只中。
私の席は最前列。黒板に向かってやや左より。本来なら一番講義に集中できる特等席だけれど、教壇上で話す隊長の言葉はすべて右耳から入って左耳から抜けていく。立ち上がって解答をしているクイーンをぼんやりと眺めながら、そういえば「クラサメ隊長はいつもどこか気だるそうに講義をするけれど、実は的確に要点がまとまっていて分かりやすい」と力説されたことを思い出した。誰から聞いたかは忘れてしまったけれど、他のクラスの人だったと思う。自分の事ではないのに何故か自慢げに語っていたその人の顔が思い出せないから、まあつまりそういうことなのだろう。
ちらっと時計を見ると、講義終了まではあと34分。長い。
これだけ集中できない理由は、私の隣にあった。
バレないようにそっと隣の彼…エースを盗み見た。
黒縁の眼鏡をかけて真剣そうに前を見つめる横顔。細い銀色の髪が、窓から差し込む陽の光を反射してきらきらと光っている。
綺麗。思わず頬が緩んでしまう。
エースの彼女になれたなんて今でも夢みたいだ。だって彼女って、つまり大好きな彼のいちばんになれたってことで、そんな偶然めったに無いことで、とどのつまり幸せすぎる。今の私は言うなれば無敵モードで、大抵のマイナスな出来事は流せる自信がある。こういうのを"浮ついている"と言うのだろうか。でも無敵なのだ。なんとでもお言い。
そんなことを考えていたら、いつのまにかこっそり見るつもりがバッチリ見てしまっていた。視線を感じたのかエースが私の方を見る。
それまで黒板に向けられていた眼差しが私だけに向けられた。
私の大好きな彼の目が、黒縁窓の奥から私だけを見つめて微笑んだ。
一気に心臓がどくどくと波打つ。鏡を見なくても顔が熱いのがはっきりとわかる。
吸い込まれそうな白藍色の瞳から目が離せない。
上気だった頭に、伏したまつ毛が長くてお人形みたいだ、なんて感想がぼんやりと浮かんだ。
「ナマエ、どこを見ている」
突然の声に驚きハッと声の方を見る。目の前には鬼の形相のクラサメ隊長がいた。
体感温度が3℃下がった(気がする)。
ひゅっと喉が悲鳴をあげる。
「す、すみません」
「エースばかり見ていないで少しは黒板を見たらお前の成績も上がると思うが」
頭上から降ってくる氷点下の眼差しにぐうの音も出ない。
0組の教室が笑いの渦に包まれる。ナインがやけに野次を飛ばしてくる。「ナインにだけは言われたくない」と抗議すると、トレイがよく通る声で「どんぐりの背比べはやめなさい」と笑った。すかさず「なんだとコラ」とナインの怒号が飛ぶ。
私はいたたまれなくなって顔を赤らめて机に突っ伏した。穴があったら入りたい。妥協策としてなるべく小さくなることにした。無敵モードは解除だ。切実に空気になりたい。
喧嘩腰のナインを強制的に黙らせようとしたのか、隊長のブリザドの詠唱が始まる。
それを頭上で聞いていると、左の耳元でそっと、
「ナマエ、この講義が終わったらな」
優しく、甘く。囁くエースの声がした。
ハッと顔を上げて隣を見ると。彼はもう視線を黒板へと向けていた。
隊長が何事も無かったかのように粛々と講義を再開する。
思わず頬が緩む。よし、と少しだけ気合を入れて未だまっさらなノートを手元に広げる。しゃきっと背すじを伸ばして、黒板に向かい合った。
キミノトナリ。
(ほら、やっぱり無敵モード)
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