気になるあの子は
物事にはいつだって評価が付き物だ。
テストも、スポーツも、美術も、それらには何かと理由をつけて評価をする。俺の前にはいつも「神田優輝」の名前があった。テストをすれば一位に神田。体育で競い合えばゴールテープを切るのは神田。絵を描けば最優秀賞に選ばれるのは神田。何をやっても俺はあいつを超えることができない。俺はいつだって二番手だった。
俺だって顔はいい方だし、勉強も運動もできるし、友達だって多い。あいつと何ら変わらないっていうのにこの差は一体なんだというのだ。何をやっても勝てない。いつしか俺の心は神田に対する嫉妬に支配されていった。
そんなある日、俺は神田と二人になる時間があった。放課後、忘れ物を取りに教室へ戻ると神田が一人ぽつんと席に座っていた。
「何してんの」
それは自然と口からこぼれた。話しかけるつもりなんて全くなかったのに、気づいたら神田に声をかけていたのだ。
「ん?ああ、彼女と待ち合わせしてんだけどその時間潰し」
「ふーん…」
その見た目と性格で彼女持ちとまできた。こいつに死角なんてないんじゃないか?ああくそ、イライラしてきた。さっさとこの場を離れよう、これ以上関わるとどうも調子が狂う気がする。
「なあ、暇だったら話し相手になってよ」
「は?なんでだよ…」
「お前と話したことそんなないじゃん。同じクラスなんだし親睦深めようぜ」
真っ直ぐ嘘のない瞳と言葉に俺は断ることができず、嫌々話し相手になることになった。しかし逆にこれはチャンスなのでは?適当に話を合わせてこいつの弱みを引き摺り出せれば俺はこいつを超えることができる。
そう思っていたのに、俺は甘かったようだ。
弱みを引き摺り出すどころか良いところしか出てこない。こんな考えをしている自分が惨めになるくらい神田はいい奴だった。こういうところなんだろうな、俺と神田の差ってのは。
「俺、正直お前のこと好きじゃねえし嫉妬しまくってんだけどさ、これなら俺でも勝てるみたいなのねえの」
「すごいストレートに言うじゃん。それなのに話し相手になってくれたの?いい奴だなお前…。うーん、勝てるか…強いて言うなら俺死ぬほど寝相悪いからそれなら」
「寝相…って」
「この前、前園が泊まりに来たとき『お前の隣で寝たくない』って言われるくらいには悪いよ」
自分から聞いておいてあれだが、それは知りたくなかったかもしれない。そうか寝相悪いのか…。
「っと、そろそろ行くわ。ありがとう話し相手になってくれて」
「はいはいどういたしましてー、彼女サンとごゆっくり」
俺がそう言うと神田は口元を緩ませながらひらひらと手を振った。幸せ漏れ出てるぞ。…あんなに嫉妬してる相手だって言うのに気がついたら普通に話し込んでしまった。周りを惹きつけるのも神田の魅力なんだろう。あーあ、俺って本当に嫌な奴だな。ろくに話もしないで勝手に嫉妬して、ばかみたいだ。
窓から外の様子を見ると校門で他校の人物と合流している神田が見えた。おそらく彼女だろう。クラスのみんなには見せないような顔している彼はとても幸せそうだった。
「本当、神田には勝てねえよ」
俺はきっとこの先あいつを超えることはないだろう。あったとしてもきっと次の瞬間には俺を追い抜く。だから決めた、俺はお前の隣に並ぶ。お前の隣に並んで競い合うやつになる。いつまでも二番手で悔しい思いをするのはやめるんだ。
見てろ、次は俺が勝つ。