気になるあの子は

私の好きな人はどうやら女子が苦手らしい。
友達として接する分にはいいけど恋愛感情を抱いたことがわかった瞬間壁を作られ、離れていってしまう。だけどチョコレートは受け取ってもらいたい!


「…という事情がありまして、神田くんと前園くんに協力してもらいたいの。お礼はもちろんするから!」
「うん。そういうことならまかせて」
「羽奏に渡すの大変だもんなー」
「二人ともありがとう!」


彼らは三崎くんと仲のいいお友達。神田くんは超ハイスペックな学校の人気者で、前園くんはクラスのムードメーカー的存在だ。

そんな二人に協力してもらう作戦だが、まず三崎くんが二人と一緒にいるところを狙う。なぜなら一人だとバレるリスクが高いからだ。あくまで“友達として”チョコを渡さないといけないため、それは避けなくてはならない。

次に神田くんに話しかける。神田くんはそれはもういろんなところからチョコを貰うのでそれに便乗して「いつもありがとう」と友チョコを渡す。そして自然な流れで前園くんと三崎くんにも渡す。これなら平等に友チョコだということもわかるし、三崎くんにチョコを渡すことができる。

本当は本命って言えればいいんだけど繋がりを断ちたくないしこれが現状の最善策と言えるだろう。


「よし、頑張ろ」


両手をぎゅっと握りしめ気合を入れると神田くんと前園くんから「応援してる」とガッツポーズを貰った。大丈夫、きっとうまくいく。

そして迎えたバレンタイン当日。チョコの入ったトートバッグを片手に向かうのは神田くんの元。まあ予想はしていたけど学年問わず多くの女の子に囲まれる神田くん。わかりやすくて助かる。三崎くんはいるだろうか。人混みを掻き分け前に進む。


「わっ!?」


夢中になって進んでいたら誰かの足に躓いて体勢を崩してしまった。いけない、このままじゃ転けてチョコレートが潰れてしまう。せっかく頑張って作ったのに───!


「大丈夫?」
「だ、いじょぶ…」


転ける寸前に腕を引かれ何とか体勢を持ち直し、私もチョコレートも無事だ。無事なんだけども。その私を助けてくれた人のせいで心臓が無事ではない。
…三崎くんが私の腕に触れている。心臓の音がうるさいくらいに体の中で響いている。うるさい、静まれ、聞こえちゃう…!


「君も優輝に用だよね?今呼ぶから待ってて」
「あ、いや!神田くん、というより三崎くんたちに!」
「僕たちに?」
「そう!神田くんもなんだけど、前園くんと三崎くんにも渡そうと思ってて!それでその」


ああもう計画がめちゃくちゃだ!神田くんは対応しきれないし、頼りになるのは前園くんだけ。助けて!と必死にアイコンタクトを送る。すると思いが届いたのか視線がパチっと交わった。


『前園くんフォローして!』


熱い視線を前園くんに送る。しばらくの間があったあとハッとした表情に変わった。よかった、うまく伝わったみたい!


『へへ…』


なんで照れるんだよ!前園くんにアピールしたわけじゃない!チョコ渡すのやめてやろうか!?


「これ僕が預かっていい?あとで渡しておくから」
「あ、待って!あのね、これ中身が違くて。緑の袋が神田くんで、黄色が前園くん。それで水色が三崎くんに」
「わかった。ありがとうね」
「…!に、苦手だったらあげちゃっていいから!それじゃ!」


早口でそう伝えてその場をパタパタと足音を立てて去る。渡せた…!大丈夫だよね、自然だったよね?よかった、よかった───!



数日後。


「おはよう」
「三崎くん!おはよう」
「この前のチョコ美味しかったよ。優輝と樹と食べたんだけど好みに合わせて作ってくれたんだ?」
「そ、そうなの!お口にあったようでよかったよ〜」
「お返しちゃんとするから。じゃあ先行くね」
「うん!楽しみにしてる…!」


手を振って神田くんと前園くんと合流する三崎くんの背中を見送る。事前に神田くんと前園くんから好みをリサーチして、一人だけ特別感を出さないために考えた作戦だったけどうまくいったみたいだ。お返しもしてくれるみたいだしかなり上出来では!?


「ふふっ」


三崎くんに思いを伝えることはできないけど、今はこの距離感を保っていきたい。私の叶わない片思い。せめて今だけ楽しませて。
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