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中学生編






“一緒に過ごすの嫌じゃなかった”



それはどんな言葉よりも嬉しい一言だった。
証拠にほぼ無縁だった図書室にこうして足を運んでいる。
それにここだと天川さんも「周りを気にしなくていいから」と気兼ねなく話をしてくれる。
俺としても他の人に邪魔されないし好都合だ。



「ところで天川さん」
「何」
「俺は今どのあたりにいるんでしょうか」
「…?ああ、そうね」



彼女は紙とペンを取り出すと
ある図を書き始めた。
真っ白な紙の上に2本の平行線。



「ここが友達ライン」
「なるほど?」



友達ラインと呼ばれる線を指すペンはそこから下の線に向かってゆっくり降りていき…。
───降りて?



「ここ」



ようやく止まったペンは真ん中より少し下。
つまりはクラスメイト以上友達未満。
そんなことがあるのか?
こんなに距離が縮まったはずなのに!?



「何が原因なんですか!?」
「うるさいわよ」



動揺が隠せない。
一体何がいけないっていうんだ。
クラスメイトと友達の差って何?
悶々としてる俺を見かねた彼女は
「大方は私の方が原因だと思う」
と呟く。



「わからないのよ、このままでいいのか」



くるくるとペンを回しながらどこか不安げな表情を浮かべる。
以前も見たあの難しい顔と同じ。
そんな彼女に声をかけようとした時だ。



「あ!優輝くん見っけ!♡」



無理やり2人の世界に割り込むように、
それは突然やってきた。
満面の笑みで名前を呼ぶ一人の女子。
突然の出来事にお互い呆然としていると、
彼女は真っ直ぐに俺の元へ向かってきた。
隣にいる天川さんのことなんて気にも止めずに。



「えへへ、最近優輝くん付き合い悪いから寂しくて来ちゃった〜!♡」



甘い声で話す彼女はクラスメイトの
いわゆるカースト上位組の1人だ。
でもなんで彼女がここに…?



「悪いけどまた今度に…」
「──優輝くんさあ、それ何回目?」



嫌な予感がする。



「最近他の子の誘いも断ってるよね。
前はそんな事なかったのに。
それで断ってまで何してるのかな〜って思って
私、後を追ってたの。

そしたら…見ちゃった!
こ〜んな地味でつまんない子と一緒にいるところ!」



キャハハ!と甲高い声で笑うと
まるで“自分の方がふさわしい”と
わざと天川さんに見せつけるように俺の腕を組む。



「お前何がしたいんだよ!」



彼女は首を横に傾げると
「ん〜っとね、優輝くんが優しいから
天川さんが勘違いしちゃってるんじゃないかと思って!

あのね、優輝くんはみ〜んなに優しいの!
4月のあの事だって天川さんが暗い顔してたから
気にかけてくれただけなんだよ?
だから自分だけ特別なんてことはないんだよ!」



ふざけるな。
俺はそんなこと一度だって言ってない。
彼女の発する言葉に神経を逆撫でされる。
勝手な妄想を押し付けられて黙っていられるわけがない。
…それなのにどうして。



──どうして天川さんは冷静でいられるの?







わかっていた。
いずれこういう事に巻き込まれることが。
それなら私の答えはただ一つ。



「そんなの一度も思ったことないわよ。




だって彼とは友達でもなんでもないもの」







これで満足かしら?と言わんばかりの表情で天川さんは足早に図書室を去った。



このままじゃだめだ。
せっかく縮まった距離を、
今日まで一緒に過ごした時間をなかったことにしたくない!
行かなきゃ…ちゃんと話さないと…!
「ごめん」と彼女の腕を振り解き天川さんを追いかける。








「どうして私を見てくれないの…」



1人残された室内で呟いたそれは
音の外れたトランペットによってかき消された。







「…ッ、天川さん!」
「別に気にしてないわよ」



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何を言おうとしたのかお見通しだと言わんばかりの言葉だった。



「あれくらい何ともない」
「けど俺のせいで天川さんに迷惑かけた…」



言葉が出てこない。
謝ったところで何になる?
俺は天川さんに許されたいわけじゃない。
すると沈黙を破るように彼女は話す。



「覚えてる?4月のあの言葉」



“変なトラブルに巻き込むことだけはしないでよ”

それは俺と交わした大事な約束。



「──!待ってそれは」





止めようとする俺に構わず
ゆっくりと開かれた彼女の口からは






「もう話しかけないで」






触れたらケガをしてしまいそうなほど
ひどく冷たい声で放たれたそれは
どんな言葉よりも深く、痛く心に突き刺さった。






俺は守れなかった。






3話「言葉」





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