このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

中学生編





言いすぎたかもしれない。



───そんなことない。



彼にひどいことをしてしまった。



───元々友達じゃないもの。





こうして頭を悩ませるのは何回目だろうか。
彼を見かけては自問自答の繰り返し。
あんなに嬉しそうに話しかけてきた彼も
今では気まずそうに視線を逸らすようになった。



望んでいた平穏が戻ったはずなのに
満たされないこの気持ちは一体なんなのだろう。







「もうすぐ夏休みだからって気を抜くなよー。9月からは受験モードに切り替え!進路調査票の提出まだの人は明日までに出せよー」



そんな担任の言葉を思い返して
白紙の進路調査票を見つめる。
適当に書いて紙飛行機にでもしようかしら。



「何よ」
「な、なんでも…」



日課になってしまったのか、私と気まずい関係になっても彼は図書室へ足を運んでいる。
前と違うのはひとつ席を空けて座っていること。



「聞いたわよ、スカウトの話」



その言葉に彼はピクリと反応する。



「結構来てるんでしょ、なのに調査票が白紙だなんて珍しいこともあるのね」



「…そんなことないよ」と彼は白紙の調査表をくしゃっと握る。
…いけない、地雷を踏んでしまったかしら。
そんな私を気遣うかのように「これは独り言」と前置きをすると彼は言葉を紡ぐ。



「──ある男の子がいるんだ。
勉強もスポーツも何でも器用にこなす、
まるで神にでも愛されたんじゃないかって奴。


その子は周りの期待に応えようと毎日頑張っているんだ。
期待に応えられたら嬉しいしね。
…けれど、だんだん疲れてきちゃったらしい。
求められるレベルの重圧に耐えられないんだって。
そりゃそうだ、どんなにすごくても中身は中学生だ。


皮肉なことに一部からは人生イージーモードなんて言われたりもしてさ。
そんなわけねえっての。何も知らねえくせに。


そんな時にある女の子と距離ができちゃってもうメンタルぼろぼろ。
素の自分を出せる唯一の人だったんだ。
…まあ友達とは思われてないみたいなんだけど。

それでも本当にショックでさ。
自分のせいでとか、大事な約束を守れなかったとか、
自問自答の繰り返し…」



そのあとの言葉は喉に詰まって出ないようだ。
…まるで語りかけるような長い独り言を黙って聞き流せるわけがないわ。



「…男の子はその女の子とどうなりたいのかしら」
「どう…って、そりゃ付き──」



彼は言いかけた言葉に対しハッと何かに気づくと
「違う!いや違わないけどこれはまだ違う!」と慌てる。
今日は一段と落ち着きがない様子だ。



「つまり男の子はね!仲直りしたいんだって!
仲直りして…前みたいな距離感に戻れたらいいな…って…」



design



気がつくとお互い顔を合わせていた。
どちらからともなく、無意識に。
視線を逸らさずに見るのが随分と久しく感じる。
…そして込み上げる一つの感情。



「寂しい」



不意に口からこぼれ落ちたそれを合図に
蓋をしていた感情が溢れ出る。



「寂しいのよ、あなたに避けられるのが。
…不思議よね、だって今までは私があなたのことを避けてたのに。
いつの間にか…あなたに話しかけられるのが嬉しかったんだと思う。

…私もずっと悩んでた。言いすぎたって、ひどいことしたって」



“あの言葉”を選んでしまったのは
踏み出す勇気がなかったから。
───でも、もう大丈夫。

私は離れた距離を埋めるように
ひとつ空いた席に座る。



「天川さん…?」
「あなたの言う男の子と女の子は仲直りしたとしても友達同士にはならないのかしら」
「…!」



「ずるいなあ」と彼は笑みをこぼし呟く。
本当にそう思う。私ってばずるいわ。



「これは独り言でも、話の中の2人に向けてじゃない。
目の前にいる天川さんに向けてだよ」
「あら何かしら?」



スゥ…と深呼吸をして放つ



「俺と…友達になってください…!」







「ふふ、私でよければ喜んで!」







鞄についたキーホルダーが
光に照らされ小さな星空を映し出した。


あの日の占いを信じていたわけじゃない。
けれど踏み出すきっかけをくれたのは
紛れもなくそれだったんだ。








4話「独り言」

4/10ページ
スキ