2月5日
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おなまーえは周囲の安全を確認すると、すぐさまランサーに連絡をした。
今彼がここに来ればセイバーと戦闘になる可能性があるため、身を潜めていてほしいと伝えたのだ。
「今日ライダーのマスターから協力を求められてな、それを拒否したから怒ってるんだろう」
「そうでしたか。ところでシロウ、そちらの女性は?」
彼女の翡翠色の目がこちらを向く。
「あー、話すと長くなるんだが…」
「……聖杯戦争の、参加者です」
「…なるほど」
おなまーえは誤魔化すこともせず正直に話した。
当然警戒されるものと思っていたのに、セイバーの反応は意外に淡白だった。
「ですがサーヴァントの反応はないようですね。それとも気配遮断のスキルでも持っているのでしょうか。」
「あ、いや、私のサーヴァントは今おつかいに行かせてるから」
「ふむ…それは感心しませんね。マスターならば命を狙われるのは当然のこと。シロウもそうですが、もう少しこの戦いに緊張感を持った方がよろしいかと。」
「って何気にオレを責めるなよ」
「今回は間に合ったからいいものを、また登下校中に襲われたらどうするのですか」
「だから大丈夫だって。今だって結果的には無事だったんだから。」
「それが傷を負った者のセリフですか」
2人が言い合いを始める。
おなまーえは蚊帳の外になってしまった。
(よそのサーヴァントの日常なんてあんまり見てないから新鮮かも…)
サーヴァントというものは歴史上の偉人が英霊になったものと呼ばれていて、ついすごい存在と遠巻きにみてしまうが、こうしてみると意外と普通の人間なのかもしれない。
ランサーも仕事となれば冷徹になれるが、普段は気の良いアニキである。
「そういえば、オレあんたの名前聞いてなかったな」
「へ」
セイバーとの口論がひと段落し、士郎はおなまーえに声をかけた。
「名前。あんたはオレの名前を知ってるかもしれないが、オレはあんたの名前を知らない。」
言われてみれば出会ってから自己紹介をしていなかった。
一瞬、自分の情報をどこまで伝えて良いものか迷ったが、彼には二度も助けられたのだ。
引け目もある分、こちらの素性を明かすのは最低限の礼儀だろう。
「――おなまーえ」
「おなまーえか。よろしくな。」
手を差し出された。おなまーえもおずおずと右手を出す。
ランサーとは違う暖かさがあった。
「それで、お前のサーヴァントはいつ頃こっちに戻ってくるんだ?」
「えっと、もう少しかかるけど……今のうちに私のこと殺しておく?正常なマスターなら多分そうすると思うけど。」
「オレはそんな卑怯なことはしない。けど、あんたの言うところの正常な他のマスターとやらがどうするかわからないから、サーヴァントが来るまでうちにいたらどうかと思って。」
「…正気?」
「夜道を女の子1人で歩かせられないだろ」
自分を倒しに来たと公言していたマスターを助けただけでなく、夜道が危険だから家に上がらせる?
どれだけお人好しなのか。
いや、ただ単に危機感がないだけなのか。
先ほどのセイバーの発言も最もだと実感する。
『――ほぉ、男としてはまずまずの判断だな』
ランサーが思念で話しかけてきた。
どうやらもう迎えにきてくれたようだ。
『ま、テメェの家に誘うのはどうかと思うが』
『…アサシンは撒いたの?』
『撒くもなにも、あいつは山門から離れられないって言ったろ』
『そうだった』
『で?行くのか?』
『まさか』
『つまんねぇな』
セイバーも士郎の言葉に難色を示している。
彼を信用していないわけではないが、油断していたところをバッサリされて退場なんて間抜けにもほどがある。
「どうする?うち来るか?」
「…遠慮しておくよ」
おなまーえは士郎の誘いを断った。
「体調もあまり良くないし」
「ならなおさら…」
「衛宮くん」
2人は向かい合う。
彼の哀れむような視線が気に食わなかった。
「あなたは聖杯戦争に勝ちたくないの?」
「いや、勝ちたくないわけではない」
「じゃあ敵に同情なんてしないで。今日のところは恩があるから見逃すけど、次会った時に私があなたを殺さないとは限らない。そのこと、肝に命じておきなさい。」
「遠坂みたいなこと言うなよ」
「むしろ彼女が正しいの」
――シュタッ
ランサーがおなまーえの隣に降り立った。
衛宮士郎にとっては、忘れたくても忘れられない顔だろう。
「おまえは…!」
「シロウ下がって!」
セイバーが身構える。
ランサーはニヒルな笑みを浮かべるだけだ。
これでわかっただろう。
おなまーえのサーヴァントはランサー。
つまり聖杯戦争に参加する前の彼を一度殺したのはおなまーえであると。
「お人好しなのはあなたの美徳だけど、度がすぎると身を破滅させるよ」
ランサーがおなまーえを抱え上げる。
「また会おう、衛宮士郎」
「じゃあな、坊主」
ヒョイっと地面を軽く蹴り、ランサーが夜空に跳ねた。
セイバーは追いかけない。
おなまーえは口元を押さえた。
「けほっ…」
「痛むか?」
「大丈夫…」
衛宮士郎から離れた途端に発作の名残が再発する。
「…結局アサシンもセイバーも倒せず仕舞いだね」
「いいんじゃねーの?焦ってもいいことないぜ」
「ランサー、本心はもっと戦いたいでしょ」
ケルトの戦士は好戦的だ。
特に彼は粗野で野蛮で、だがそれでいて人懐っこく、根は正直で忠義に厚い男。
欲望を殺して、おなまーえの体を気遣ってくれているのもよくわかる。
「…まぁな。俺の好きなもんは強者との真剣勝負だ。」
「あと綺麗なお姉さん」
「わかってるじゃねぇか」
グリグリと頭を撫でられる。
「が、嬢ちゃんのことも嫌いじゃあないぜ」
「っ!」
その言葉に、その横顔に、不覚にも胸が高鳴った。
(――っ!…嘘でしょ?使い魔だよ?なんで私、サーヴァントに恋なんて……)
そこまで考えて、ふるふると首をふる。
自覚したくないという意地が心のどこかにあった。
「…あ、ありがとう。私も…ランサーみたいな人、好きだよ。」
「…はっ、もちっと歳食ってから言いやがれ」
「無茶言うなぁ」
《2月5日 終》