1月31日
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「勝った…」
「ちくしょう!もう一戦だ、嬢ちゃん!」
「いいよ、いくらでも負かしてあげる」
おなまーえとランサーはボーリングに来ていた。
意外や意外、おなまーえには適性があったようで、彼女は先程からストライクやスペアを連発している。
「いやー、こういうのも悪くねぇな」
「楽しい?ランサー」
「ああ。正直肌にあわねぇくらいだ。」
「え、あ、嫌だった?」
「いーや。慣れねぇ好待遇に、ちょいとばかしくすぐってぇだけだ。」
ボールを置いてランサーが腰をかけた。
おなまーえも一息つくため隣に腰をかける。
「……私も、こんな娯楽施設初めてだから、ちょっとくすぐったいかも」
物心ついた頃から彼女の世界は六畳間の一室だけだった。
白で統一された部屋は無機質で、訪れる人は看護師と母だけ。
父は生まれてくる前から既にいなかった。
母も結局おなまーえが10の時に亡くなった。
『あなたは偉大な魔術師の子供なのよ』と母はよく言っていた。
父親は名前すら知らないが、母の言い方からすると、彼はどうやら生きているようだ。
だが妻子を捨ててどこかに行ってしまうような放浪男を父とは呼びたくはなかった。
唯一その父である者に感謝しているのは、この体に流れる魔術回路だろうか。
だが残念なことに、それも十分にうまく使いこなせてはいない。
言峰曰く、今の魔術研究では解明できない回路で、おなまーえの手にも余っているような状態らしい。
「…………」
うつむき、寂しげに笑っているおなまーえをランサーはチラッと横目で見た。
「あーあー、初めてでターキーなんぞだされちゃ、男の面目がたたねぇんだがな」
「まぐれだよ、まぐれ」
わざとらしい彼の言葉。
おなまーえは笑顔で返す。
「じゃあ、2回戦目いきますか」
「おう。次は負けねぇぜ!」
2人は日が暮れるまでボーリング場にこもっていた。
****
1月の夜更けの乾いた空気がおなまーえの体温を奪っていく。
青白い月が道行く2人を照らす。
「すっかり夜になっちゃったね」
「ったく、信じられるか?5戦やって、勝てたの一回だけだぞ?」
右肩を回しながらランサーは悔しそうに呟く。
ランサーの負けず嫌いが発動して、結局計5戦やったがそのほとんどがおなまーえの圧勝。
最後だけおなまーえが手を滑らせてガーターを出したことで、初めて彼女に黒星がついたのだ。
「このオレが負かされるとはねぇ。嬢ちゃん、実は名のある魔術師なんじゃねぇのか?」
「バカにしてるでしょ」
軽口を言い合いながら坂を登っていく。
とても寒い日だった。
「寒いね…」
「そうだな」
「サーヴァントでも寒いって感じるんだ」
「そりゃ実体化してりゃ感じる。霊体だと感じねぇがな。」
「ふーん…」
ガワは完璧に人と同じなのに、その実幽霊や使い魔と同じ類。
0か100でしか物事を見れないおなまーえにとっては、その矛盾は混乱のタネであった。
「んで?オレたちはどこに向かってんだ」
ここまでおなまーえに従ってついてきたが、こちらの方角はホテルのあるエリアとは正反対である。
むしろどんどん遠ざかっている。
「えっとね、この辺りで霊脈のある二ヶ所を見せておこうと思って」
冬木において霊脈のある箇所は四ヶ所ある。一つはランサーを召喚した言峰教会。
残る二つは今彼らがいる場所から比較的近いところにあるため、今晩中に見せようと思ったのだ。
「まずはここ、柳洞寺」
「――こりゃたまげた」
円蔵山中腹に立つ寺院・柳洞寺は冬木屈指のパワースポット。
こんな言い方をしてしまうと軽んじられてしまうかもしれないが、実際にここは魔術師がこぞって評価する霊地。
第一次聖杯戦争ではここに大聖杯が降りたとも言われているほど、由緒正しき霊脈だ。
「霊脈つっても、こりゃもうほとんど要塞だぞ。見てみろ。」
階段を上る足を止めて、ランサーが参道の脇の木に触れようとした瞬間。
――バチィッ
彼の手が結界に弾かれた。
「うお、すげ」
「だ、大丈夫?」
この表の参道以外には、サーヴァントを寄せ付けない結界が張られているようだ。
予想以上に強い結界に、おなまーえは顔が強張る。
「もし陣地作成持ちのキャスターがここを選んだら…」
「そいつはあり得る話だな」
サーヴァントを寄せ付けないこの結界は、中に入ってさえしまえば表を守るだけで事足りてしまう。
いっそのことそのまま聖杯戦争を迎えて、残った一体と戦って勝利すれば、無駄な体力を使わずに聖杯を勝ち取ることもできるのだ。
「オレみたいなのには性に合わんが、まともな魔導師だったらまずここを選ぶだろう」
「もしそうなったら、なるべくキャスターとは戦いたくないね」