第4夜 黒の教団壊滅事件(?)
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「ジェ〜リ〜〜ちゃ〜ん!」
「おなまーえちゃぁ〜ん!」
食堂に飛び込むと、まず『お帰り アレン』と書かれた横断幕が目に入る。
そして厨房の奥では忙しなく動くジェリーの姿。
「ごめん、注文ならあとででもいいかしら〜?」
「手伝いに来たの!」
「ま!それは嬉しいわ!」
裏手から厨房に入れば山盛りの皿がたくさん並べられていた。
盛り付けは有志の人たちが手伝っているが、ほとんどジェリー1人で作っているのだろう。
「パーティー用の料理?」
「そうよ〜。でも通常営業もしないといけないから手が回らなくって。」
「なら私に任せてよ」
「あら、おなまーえ料理できた?」
「蕎麦だけなら」
「神田専用じゃな〜い」
残念ながら好物の坦々麺を作ることはできないが、蕎麦だけならなんとか作れる気がする。
なにせ麺を茹でるだけなのだ。
なんとかなる。
と、タイミングよく窓口を覗く人影が見えた。
ジェリーは今ちょうど手が離せない。
「私いくよ!」
「おねが〜い」
近くにあったエプロンを羽織り、おなまーえはパタパタとカウンターに顔を出す。
「はいはーい、ご注文はお蕎麦ですかー?なんちゃって。」
「……何してんだ、こんなところで」
「せ、先輩!?」
前言撤回。
最悪のタイミング。
眉間のシワがいつにも増して濃く刻まれた神田が、カウンターに立っていた。
「科学班の手伝いは終わったのか」
「う…え、えっと…こっちに派遣されて…」
「……つまみ食い目当てか」
「ご、ご名答ー…」
約束を反故にして、加えて科学班の手伝いすら中途半端に放棄してここにいるおなまーえに、神田は良い気持ちはしないだろう。
蛇に睨まれた蛙よろしく、だんだん小さくなったいくおなまーえの背中を、周りの人はハラハラした目で見つめた。
「…………」
「…………」
気まずそうに目をそらす。
神田はハァと大げさにため息をつくと、聞こえるか聞こえないかの声でボソッと単語を告げた。
「……蕎麦」
「え…?」
「蕎麦だ」
「は、はい…!」
作ると言った手前、おなまーえが全部やらなければならない。
ジェリーから指示だけもらおうと、彼に声をかけた。
「ジェリー、お蕎麦のストックって」
「ごめ〜ん!切らしてて、生地は作ってあるからカットしてちょうだい!」
「ウソでしょ…」
たしかに生地は丸めて厨房の端に置いてあった。
だがそれは蕎麦の形ではなく、単なる球状の塊。
これを伸ばして切る必要があった。
「……これ、
「しません!!」
「ですよねー…」
おなまーえはイノセンスをしまい、麺棒を取り出した。
ジェリーが作っているところを何度か見たことがあるため、見様見真似だがチャレンジする価値はある。
おなまーえは平らな台に打ち粉をすると、生地の塊をポンとのせた。
縦に、横に、斜めに引き伸ばし、長方形の形に近づけようとするが、どうにもうまくいかない。
厚さも統一しなければならないが、同じ圧をかけ続けるというのもなかなか至難の技だ。
ジェリーはこれを頻繁に作っているというのだから、素直に尊敬する。
「ふぅ。長方形、じゃないけど……」
できた形は歪な卵型。
厚さもムラがあるが、いつまでも神田を待たせるわけにはいかない。
もう一度打ち粉をして、それを八つ折りにした。
板を生地の上に乗せて、ここからが本番である。
「慎重に…慎重に……」
蕎麦は太さが揃いの方が美味しいし食べやすいと、以前神田が言っていた。板を少しずらして包丁を入れる。
「……すっごく太い気がする」
神田が食べて切る蕎麦はもっと綺麗だった。
もう一本、もう一本と筋を入れていくごとにだんだんと細くなっていく。
細すぎて切れなくなると、今度はだんだん太くなっていく。
やっと一人前の量を切り終えると、おなまーえは急いでそれを熱湯にぶち込んだ。
「今のうちにお皿……それから麺つゆ……」
おなまーえも忙しなく厨房を動く。
薬味を盛り付け、麺つゆを探し、ようやく蕎麦を引き上げた。
冷水で冷やし、滑りを軽く洗い流す。
それを綺麗に盛り付け、おなまーえはお盆を持ってカウンターに戻った。
「お待たせしました、先輩…」
「ん」
神田はイライラした様子もなくただ待っていた。
それが逆に申し訳なく思えてくる。
「すみません、美味しくできたか自信ないんですけど…」
「あら、もう作り終えたのね〜」
手の空いたジェリーがトレーの上を覗き込んだ。
「……あらま」
「やっぱりダメかな、ジェリー」
「そうねぇ……」
麺の太さはバラバラ。
厚みも違うため千切れてしまっているものもある。
そして全体的に打ち粉のしすぎで粉っぽい上、茹ですぎて伸びている。
とてもじゃないが美味しそうとは言えなかった。
まさに料理初心者。
だがこのトレーにはおなまーえの努力と愛が詰まっている。
ジェリーはサングラスの奥から、チラリと神田に視線を送った。
『突き返したら許さないわよ』と、目が語っている。
「その…やっぱりジェリーに作り直してもらいますね!私あとでこれ食べま――」
「食う。よこせ」
「あ…」
半ばひったくるように神田はトレーを奪うと、サクサクといつもの定位置に座ってしまった。
「………」
ジェリーがおなまーえの肩をポンと叩く。
「今度作りかた教えてあげるわ。男は胃袋から掴んでいかないとダメよ。」
「…うん、ありがとう、ジェリー」
おなまーえは他の有志の人と同じように、アレンの歓迎会の装飾や盛り付けを手伝った。