25. 夏の憂鬱の中で私にキスをして
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バスカヴィルの民は納得こそしていなかったが、渋々と道を開ける。
おなまーえはゴクリと唾を飲み込んで、持っていた剣を真っ直ぐに彼に向けた。
(まずは手錠を断ち切って、それからシャロン様とシェリル様を……あぁ、ダメだ。1人ならまだしも3人も、しかもこんなに囲まれてたら逃げ道なんて…!)
ここは壁際。
バスカヴィルはざっと数えても8人程度。
ブレイクを助け、他の2人も連れて逃げることなどほぼ不可能であった。
(私が囮になるか…)
ブレイクならきっと2人を連れて逃げてくれる筈だ。
「オイ、早くしろ」
「は、い…」
コツコツとゆっくり歩み寄る。
周りの音や声がただの雑音にしか聞こえなかった。
ブレイクは手を縛られてこそはいたが、身を捩り座る態勢をとっていた。
「ブレイク様…」
小声で彼に聞こえるか聞こえないかというほど弱い声で名を呼んだ。
その縋るような声に、ブレイクはふっと小さく笑う。
「私は生涯でたったの一度でも貴女のことを忘れたことはありません。だから貴女に殺されるのは当然のこととして受け止めますヨ。」
カツンとひときわ大きい音を立てておなまーえは歩みを止めた。
彼女の影がブレイクを覆う。
「デスガ、私はまだ死ぬつもりはありません」
「……」
ブレイクは手錠をジャラッと持ち上げた。
やはり手錠を断ち切ろう。
そのあと自分が囮になって、ブレイクに2人を連れて行ってもらう。
(私は、ここで殺されるかもしれないけど)
きっと彼ならうまく逃げてくれるだろう。
「主人を、よろしくお願いします」
そう言い、おなまーえは剣を大きく持ち上げた。
あとは振り下ろすだけ。
だが次の瞬間、バスカヴィルの手を振り払いブレイクとおなまーえの間に割って入る者がいた。
「シャロ、ン!」
「ハッ…」
バスカヴィルを振り払って飛び出した彼女は、目に涙をためて憎しみの篭った目でこちらを見ている。
凛々しく構える少女は、震える声で言葉を紡いだ。
「見損ないましたわ、おなまーえさん…」
「…何を?」
「私、おなまーえさんとブレイクのこと、応援していましたのに…!」
「……」
「なぜ、貴女は"生きようとしないのです"!?」
「っ!?」
この状況が見えていないシャロンに苛立った。
彼女はおなまーえとブレイクのやりとりを理解している。
その上でこうしておなまーえの邪魔をするのだ。
ブレイクの手錠を外し、ここで囮になれば3人は助かる可能性がある。
だがそれはおなまーえの犠牲あってこその作戦だ。
シャロンはそれを認めてはならないとこうして立ちはだかったのだった。
(この子は…!)
ギリっと歯ぎしりした。
「そこを退きなさい」
「いいえ!退きません!」
ブレイクに剣を向けるおなまーえと庇おうとするシャロン。
(あぁ、これじゃあ私が本物の悪役みたいじゃん…)
仕方ない。
ブレイクの鎖を切ることはできなかった。
(なら、少しでも時間稼ぎするのが正義の味方ってね)
おなまーえは大きく深呼吸した。
「ロッティ!」
後方でこちらを見ていた彼女の名を呼ぶ。
ロッティはわかっていたというように眉を顰めて笑った。
「……まぁ、そうでしょうね。私も貴女と同じ立場ならそうするわ。」
「うん……ごめんなさい」