12. 過去の薔薇と、色褪せた愛をここで守っているのです
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「……いやー驚きですネー」
「オズ君は察しのいい子だし、おなまーえさんはよく私のこと見てますから気づくとは思ってましたが、まさか君にまでバレるとはネェ。」
顔だけ出して、頭まで毛布に包まったブレイク。
「レイムさんも大人になったなぁ〜」
「兄様すごいですね!」
「揃いも揃って……バカなことを言ってるな!」
スコーンという見事な音を立てて投げつけたのは飴。
ブレイクの額に命中し、彼は後ろに倒れこんだ。
「おわっ!……ひっどーい食べ物は投げるもんじゃないっていつもシェリー様が」
「……襲ってもいいですか?」
「ダメです」
「ザクス」
真剣な表情のレイム。
おなまーえは口を噤んだ。
「本当に、視えていないのか…?」
「………」
ブレイクは何も言わず、悲しげな表情を浮かべて目を閉じた。
その際緩い寝巻きからチラリと彼の鎖骨が見えた。
「!」
おなまーえは目を見張った。
ええい、この際シリアスなど気にしていられない。
チラリと横を見ると何を思ったのかレイムも「んべー」と舌を出してブレイクの目の前で変顔をしていた。
「……その鎖骨がR-18!!」
「何がしたいんですカ、君たちは!」
飛びついたおなまーえにとうとうブレイクがキレた。
立ち上がった彼はおなまーえを弾き飛ばすとレイムを足蹴にする。
「なんだ!しっかり視えてるんじゃないか!」
「馬鹿ですネ。そのくらい気配ですぐわかるでしょーが。」
「け、気配!?」
「さすがブレイク様!抱きつかせてください!」
「おなまーえさん、今日は本っ当しつこいですね!?」
「怒った姿も素敵…」
「はぁ〜」
ブレイクは大きく溜息を吐きベットに腰をかけた。
「そもそもまだ完全に光を失ったわけじゃありませんし、人の顔を判断することはできませんが、何かがそこにある程度ならわかります。まぁこれもいずれは無くなるのでしょうがネェ。」
「……結構落ち着いてるんですね、ブレイク様」
意外にも彼は落ち着いていた。
むしろ失明してホッとしているような気もする。
「ハハッ、慌ててほしいんですカ?」
「…慌てるブレイク様も素敵ですよ?」
「遠慮します。まぁ私の体にガタが来ているのはわかっていたことでしょう?」
レイムもおなまーえも黙り込んだ。
わかってはいた。
しかしわかっていることと納得することは別物だ。
「………」
「………」
「……あーもう、なんなんですかー!」
当の本人のブレイク以上に落ち込む二人に叱咤するため、彼はもう一度立ち上がった。
「言っておきますガ!私にしてみれば目が視えなくなったことなんてそれ程大したことではないんデス!」
「ふぇ」
大声をあげた彼におなまーえは一歩引く。
「さっきは目覚めたばかりのことでオズ君に悟られちゃいましたが、あと3日ももらえれば以前と同じように生活できるようになりますし、パンドラの人間が束になってかかって来ても瞬殺できる自信はありますヨ!!」
「……お前が言うと本当にできそうで怖いな。」
「だからできるですってばー」
ブレイクは後ろに倒れこんだ。
「元より視覚から得る情報はアテにしてませんし、それがなくなったところで大した害はっ――」
『見て見て!ブレイク様!夜空のお花畑ですよ!』
彼の脳裏に浮かんだのは、花火を背に嬉しそうにこちらを見る満面の笑みのおなまーえ。
もう彼女の笑顔を見ることはできない。
「……まぁ、視えなくなって寂しくないかと聞かれたら、そうとも言えないんですが……ただね、今は少しだけホッとしてるんです。」
おなまーえとレイムは頭に疑問符を浮かべた。
「私にとってこの罰は救いですから。」
救い。
自身の体のハンディキャップをそのように表現したブレイクにムッとした。
「最も辛いことは何も与えられぬことだと、贖う事すら許されぬことだと私は思います。まぁこれも自己満足な解釈に過ぎませんけどネェ〜」
自嘲気味に笑う彼に憤りが増した。
「……3日と言ったな」
いつもより低い声を出した兄も同じ気持ちだったようだ。
「ハイ?」
「その状態になれるまでの時間だ。」
「周りの方々にバレないようにするつもりなんでしょう?私達も出来る限り協力しますから。」
「気配が読めると言ってもさすがに時は読めんだろう。書類関係の仕事は私が処理できるように回す。」
「じゃあ実働系の仕事は3日分私に回してください。」
ブレイクが口を出す間も無く話が進んでいく。
レイムは手帳に予定を書き込んでいく。
「あー、レイムさんもおなまーえさんもそんなに気を遣わなくてもいいんですヨ?」
「心配いらん。と言うか前からお前の仕事を押し付けられてたからあまり変わらん。」
「体を動かすことには慣れてます。一応剣の扱いも心得てますから少しの間ならブレイク様の代わりも務まるかと。」
実のところ、おなまーえの剣の腕前はそこそこだ。
ルーファスから習っておくようにと指示されてからずっと訓練してきている。
「知りませんヨォ?アホ毛公爵に怒られてもー」
「問題ない!シャロン様を泣かせたくないと言う点ではお前と私の利害は一致してるし…」
「ブレイク様を支えられるのなら私は嬉しいです。それにこれは私たち兄妹の責務でもありますし。」
「はい、ですからバルマ家に仕える者として」
「違うわボケ!!」
「…!?」
乱暴な声を上げたレイム。
彼らしからぬ声に長年行動を共にしているおなまーえもギョッとした。
「お前の!!友として!!果たすべき責務だと言っているんだ!このっ…馬鹿ザクス!!」
――バターン
叫ぶだけ叫んで、勢いよく扉を閉めて出て行った。
兄の思わぬ一面を見て、おなまーえも呆然と見送る。
「……ぷっ……」
「笑わないでやってください。あれで兄の精一杯の悪口なんですから。」
「ええ…っとに昔から変わりませんネェ」
「………」
おなまーえは毛布に包まる彼を上からまるごと包んだ。
「……何してるんですカ?」
「これでも怒ってるんですよ、私。これが私からの罰です。甘んじて受け入れてください。」
ぎゅうっと抱きしめた。
抵抗されたらと思うと怖かったが、彼はなすがままにされていた。
「……ありがとう、2人とも」
ブレイクはただ目を伏せて微笑んだ。
end