Chapter.4
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魔力を強奪された。
おなまーえの身体を気遣って、常ならば30%程度しか彼は持って行かなかったのに、今日は半分以上持って行かれた。
(こんな扱い始めて…)
とうとうハウルもおなまーえのことを魔力の貯蓄層として扱うようになったのだろうか。
今まで彼はおなまーえに気を遣ってくれていただけなのだろうか。
「はっ…」
浴室に一人残されたおなまーえは虚な目で小窓の外を眺める。
荒地の雨はもう止み、細い光が差し込んでいた。
もう昼時だ。
ハウルが出てきたにもかかわらず、いつまでも風呂から上がらないおなまーえをマルクルは心配してくれた。
一度浴室の前から声をかけてくれたが「今は放っておいて」と言うのが精一杯だった。
(今日は兵器の納品しなきゃいけないのになぁ…)
おなまーえの工房には兵器を詰め込んだ袋と指輪が一つ置かれている。
早く袋を王室に届けなければ。
(…ダメ…意識が、遠くなる……)
ズルっとおなまーえは倒れこみ浴室に伏した。
目を閉じ体力の回復を試みる。
温かいお湯が彼女の体を守るように流れ続けた。
****
「…んっ…」
目が覚め、おなまーえは辺りを見渡した。
気を失った時と変わらず彼女は浴室に寝ていた。
(……空…まだ明るい……)
時間にして1時間ほど寝ていたのだろう。
おなまーえは再びぼんやりと小窓の外を眺めた。
いい加減そろそろ王室に向かわなくては。
置いてあったタオルは湿気っていたが、無いよりはマシだ。
彼女は気怠げに立ち上がると、それを胸に巻きつけ、小窓を開けて換気した。
トントンと階段を降りる。
リビングにはソフィーとマルクルと、毛布に包まったハウルがいた。
ソフィーは服が綺麗になっている。どこかにお出かけだろうか。
「……どっかいくの?」
「あ、おなまーえ!大丈夫!?」
「うん、ヘーキ」
マルクルが駆け寄ってきてくれた。
いつものように抱きしめようとしたが、彼はすんでのところで立ち止まった。
少年はほぼ裸のおなまーえに抱きつくのを躊躇したのである。
「おなまーえ!てっきり工房にいるのかと思ったよ。」
ハウルは清々しい顔をこちらに向ける。
先ほどのことを覚えていないようだ。
そう思った瞬間、無性に腹が立った。
「ねぇ、頼んでたものできた?」
「……指輪のこと?」
「うん。ソフィーに御守りとして持たせてあげたくて。」
「………」
おなまーえは無言で工房に入り指輪をハウルの方に放り投げた。
彼は慌てた様子もなくそれをキャッチする。
玄関のドアノブを変えるソフィーに後ろから抱きつくような姿勢で指輪をはめたハウルを冷めた目つきで見つめ、おなまーえは工房に引きこもった。
「……なによ、デレデレしちゃって」
彼が女の子好きで、よく遊びに行っていることくらいは知ってる。
おなまーえも遊び――いや、それ以下の魔力供給的扱いしかされていないことも理解している。
しかし、彼女はこの心の内に生まれたモヤモヤを抑えることができなかった。
「……ハウルなんて知らないもん……気分転換に王宮でも散歩してこよ……」
おなまーえはお呼ばれ用の紫のドレスを身につけ、いつもより濃いめに化粧を施した。
若干貧血気味なのでコルセットは閉めなかったが、見てくれはそんなに悪くはないだろう。
以前荒地の下町の帽子屋で買った帽子を頭に乗せ、王室に渡す商品も持った。
バタンッと荒々しく工房から出ていけば、驚いた表情のマルクルとハウルがこちらを見た。
ソフィーはもう出かけたようだ。
「おなまーえも何か用事があるのかい?」
外向け用の服を着た彼女をみて、今日も綺麗だなんて調子のいいことを言われる。
少しムッとして、彼女は素っ気なく返した。
「ええ、デートよ」
「……はぁ!?」
ハウルがギョッとした顔でこちらを見る。
マルクルもカルシファーも声が出せずにいた。
2人の横を素通りすると、数瞬遅れてハウルがおなまーえの肩を掴む。
「待て待て待て待て、待て!」
「なに、相手に迷惑がかかるんだけど」
冷たく細い目で睨みつければハウルは怯んでしまった。
「別に私たち、互いの恋愛には干渉しないでしょ。ハウルもいろんな女の子のとこ行ってるし、私も別に構わないじゃん。」
「にしても、今!?」
「恋愛するのにタイミングなんてないでしょう」
「おなまーえが遊びでそんなことするとは思えない!」
「だから遊びじゃないんだって」
「っ!?」
「…えっと、おなまーえさんはその人のこと好きなの!?」
マルクルが意を決して顔を赤くしながら問いかけをする。
一同がゴクリと息をのむ音が聞こえた。
これから会いに行く相手――サリマンのことは正直嫌いではない。
むしろ女性でありながらも王宮魔法使いまで上り詰めたキャリアは尊敬に値する。
まぁあくまで彼女の人柄とキャリアは、という話だ。
先日見た火の海といい、平気で人を殺す彼女の仕事内容はあまり好ましいものではない。
「……好き」
おなまーえは躊躇してその答えを導き出した。
尊敬を好きと表現していいか迷ったために考え込んでいたのだが、他者からはそれは恥じらいとして見られていた。
「っ…」
その時のショックを受けたようなハウルの顔は一生忘れられないだろう。
その捨てられた子犬のような顔で、少しは溜飲が下がった。
「じゃ、行ってくる」
今度こそおなまーえは玄関に向かいこの家を出て行ったのである。