hollow ataraxia《転》
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「……だが、ここがアンタの聖杯戦争じゃないなら、どうしてここにいられるんだ?」
「だから私透明人間なんじゃない。私はこの第五次聖杯戦争には参加していない、けれど別世界とはいえ第五次聖杯戦争に参加したという記録だけは残ってる。これが聖杯戦争の"再現"だというのなら私を呼び出さないわけにはいかない。けどランサーのマスターの枠は埋まってる。」
「それで幽霊ってとこで落ち着いたのか」
「うん」
不確定要因を排除するのではなく、譲歩して受け入れた結果が、透明人間というところだったのだろう。
「でもなんでおなまーえだけ特別扱いされてるんだ?そんなこと言ったら、俺が聖杯戦争に参加しない可能性だってあったかもしれないだろ?」
「うん。多分ね、それはランサーを召喚した人間が関係してるんだと思う。直接会ったことはないけれど、彼女にとって私は特別な存在なんだよ。彼女がいれば私は存在しないし、私がいれば彼女は存在しない。」
「は?」
「互いが同じ戦争に参加することができない仕組みだったんだって。その辺の細かいところはわかんないけど。でもそりゃそうだよね。この四日間は"彼女"が主人公の世界なんだもの。同じ触媒なら、他のマスター候補は外されるに決まってるわ。」
バゼット・フラガ・マクレミッツ。
ここは彼女と彼の望んだ第五次聖杯戦争。
無意識的に彼女はおなまーえを目障りな存在として認識していた。
存在してはいけない、けれどいなくてはならない対象として。
「……そうか」
おなまーえが幽霊になっている理由と、この世界に存在できる理由は理解できた。
だがまだ疑問は残っている。
「……次の質問だ。なんで俺だけにアンタのことが見えるんだ?そもそもアンタのこと知ってるのも俺だけなんだろ?」
「うん、まぁそうなんだけど。それは私の口からは言えないなぁ。」
「なんだよ、答えるつったじゃないか」
「応えるとは言ったが、答えるとは言ってないもん」
「く、屁理屈言いやがって」
「……それはこの世界の核心に関わることだから言えない。そうだな…あなたが聖杯戦争の勝者だから、とでも言っておこうかな。」
間違えてはいない。
ここは彼女と彼の望んだ世界。
衛宮士郎のガワを被った彼に、おなまーえの姿が見えるのは創作者ゆえの特権だ。
「他には?まだ聞きたいことあるんじゃないの?」
「それも答えられないとか言われたらムカつくんだが」
「まぁ……この世界の核心を突かなきゃいくらでも答えるよ」
とは言っても、思いつく質問は世界の核心に迫るものばかりだ。
これ以上聞きたいことなんて――あぁ、1つあった。
「……じゃあ、最後の質問だ。これだけは真面目に答えてくれ。」
こちらの真剣な表情に影響されたのか、おなまーえは机から肘を下ろした。
すうっと大きく呼吸して、小さく「いいよ」と答える。
「アンタ、この自分が死んだ後の世界を見て辛くはなかったのか?俺以外の……遠坂にも、好きな男にも気づかれなくて。」
ピクリとランサーが反応した。
ここは少女がハナから存在しなかった世界。
平和で穏やかで争いもなくて、でもそこにおなまーえという要因はどこにもなく、彼女が残した記録も一切ない。
こんな世界を見せつけられるなんて、とんだ生き地獄ではないだろうか。
"お前がいなくとも世界は順調にまわっている"。
その証明を延々と見させられる。
この世界に彼女を留めておく理由は、嫌がらせのようにそれを何度も何度も刷り込むためとしか思えなかった。
「……そうだね…」
少女は目を閉じて繰り返した四日間を思い出す。
初めて意識を持ったとき、おなまーえは自分の死体の前にいた。
ツンツンと体をつついても反応がないことから「ああ、私幽霊なんだな」と漠然と理解できた。
見事としか言い様がないほど、頭のてっぺんからつま先まで、ミイラの如き死に化粧。
病院という狭い世界から一歩も出ることなかった自分は、最後の最期に枕を濡らして事切れていた。