2. 貴方が私にキスをするたびに私は子供のように震えました
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Everytime you kissed me, I trembled like a child.
貴方が私にキスをするたびに私は子供のように震えました
ルーファス様は今日もシェリル様宛にお手紙を認められた。
分厚い紙束は綺麗な紐で束ねられている。
このお手紙を届けして返事をもらうのが、この家に使える妹のおなまーえ=ルネットの仕事。
同じくこの家に使える兄のレイム=ルネットの仕事を引き継いだものだ。
しかし未だにシェリル様からお返事をいただいたことはない。
我が主も、なかなかしつこいことだ。
朝手紙を受け取ってからすぐに支度してバルマ邸を出た。
「……よし」
目の前にそびえ立つは四大公爵のうちの一柱、レインズワース家の上品な屋敷。
おなまーえは身だしなみを今一度見直して顔を上げる。
「今日こそ…」
そして期待に満ちた顔で屋敷の敷地に足を踏み入れた。
****
勝手知ったる人の家。
すれ違う使用人の顔もだいたい覚えている。
「ごきげんよう」と挨拶をすれば向こうも同じように返してくれ、そして目的の人物の居場所を教えてくれた。
公爵家の手紙は一度使用人の手を介して受け渡されることが多い。
というのも手紙の中に毒針でも入っていたら家同士の大問題になるためである。
バルマ様の手紙も例に漏れずその方式に倣っていた。
つまり、おなまーえはレインズワースの使用人に手紙を渡さなければならないのだ。
(見つけた…!)
白い髪の後ろ姿。
最後に見た時より少し伸びただろうか。
期待に胸を膨らませながらも息を殺してそっと近づく。
「ブレイク様!おはようございます!」
「っ!」
そして線の細い背中に飛びついた。
彼女が目的としていた人物はほんの少しよろけたものの、体制を直しこちらに振り向いた。
端正な顔が眉を潜めている。
「……また貴女ですか」
「はい!今日こそ、これを受け取ってください!」
ニコニコしながら差し出したのは主の手紙の束ではなく、薄っぺらい紙一枚だ。
「今日こそ、この婚姻届にサインを!」
「お断りデス」
****
「―――故に私はレインズワース家にこの身を捧げるため、貴女の求婚は受け付けません。お引き取りください。」
「そんなお堅いこと仰らず、必ず幸せにしてみせますから!」
「あぁー、もう!」
おなまーえの想い人は憂げにため息をついている。
そんなさりげない言動も絵になるため彼女は目が離せない。
「はっきり言って、心臓に悪いしうざいデス」
「えへへ、もっと罵ってください!」
「…はぁ…」
ブレイクが何を言っても、おなまーえは聞く耳を持たない。
初めて告白された時は家の事情などを考慮して丁寧に断っていたが、諦めの悪い彼女に、最近はそんなことは気にせず全力で拒否をするようにしている。
「私はどんなブレイク様でも受け入れますよ!」
「結構デス!」
もちろんわかっているとは思うが、このやり取りはレインズワースの敷地内で行われている。
つまり使用人だけでなく、ひいてはシャロン=レインズワースやシェリル=レインズワースの目にも止まるのだ。
この2人に関しては常日頃から見ている光景なので問題はない。
だが、これから街に出かけようとしている"彼"にとっては初めての光景だった。
「え、ブレイク婚約者いたの?」
おなまーえが振り向くとまだ幼い、おそらく15歳くらいの少年が立っていた。
金髪に翠色の瞳。
初めて見る顔だ。
ブレイクを呼び捨てにしていたということは、まだ社交界デビューしていない貴族の子と言ったところだろうか。
「このお方は?」
「……はぁ、タイミングの悪い」
ブレイクは苦々しい顔をして、まずおなまーえのことを紹介した。
「この方はバルマ家の使用人のおなまーえ=ルネットです。婚約者ではないので悪しからず。」
「ご紹介に預かりましたおなまーえです。ブレイク様の未来の嫁です。」
スコーンと頭を叩かれた。
にへらと笑いながら一礼すると、少年も慌ててお辞儀を返した。
「俺はオ…」
「オズ!どこに行ってたんだ」
ブレイクが紹介する間もなく声をかけてきたのはギルバート。
相当探したのだろう。
額には汗がじんわりと付いている。
おなまーえは挨拶をしようとギルに向き合った。
「ご機嫌よう、ギ…」
「ダメじゃないですかァ、レイブン。保護者が目を離しちゃいけませんヨォ。」
「うさぎのほうが言うことを聞かなくてな」
ギルバートの名前を出そうとしたところでブレイクに遮られた。
(今、わざと名前を言わせなかった…?)
訝しげにブレイクを見つめれば、目をパチリと閉じて合図を送ってきた。
話を合わせろということだろう。
「……ご機嫌よう、レイブン」
「あぁ、おなまーえか」
ギルはようやくこちらに気づいたようだった。
「また性懲りも無く求婚しにきたのか?」
「失礼ですね。ちゃんとバルマ様からのお手紙もありますよ!」
「主人がアレなら、使用人もこうなるのか」
「いやー、照れますぅ」
「褒めてない」
ギルとはパンドラ内での仲間といったところだろうか。
個人的な付き合いは少ないが、出会ったら挨拶をする程度の仲ではある。
「これからお出かけですか?」
「あぁ、ちょっとな」
行き先をはぐらかした。
どうにもこのオズという少年絡みでレインズワースとギルが動いているようだ。
「いくぞ、オズ」
「うん、じゃあまたね」
ギルが呼びかけると、オズがトコトコと近づいてきておなまーえの手を取った。
「綺麗なお姉さん、また会えるのを楽しみにしてるよ」
きゅるんという効果音のつきそうな上目遣い。
なるほど、これはタラシというやつか。
「早よ行け、クソガキ」
隣のブレイクがオズをひっぺがした。
「あははは、じゃ!」
先に行ったギルを追いかけるように、彼は小走りでその場を去った。
残されたのはブレイクとおなまーえ。
「もしかして…ヤキモチですか?」
「断じて違いマス。私の目が届くところであなたに変な虫でも着いたら、レイムさんに怒られますからね。」
「照れなくていいのにぃ」
「ハァ……手紙受け取りますヨ。どうせいつものように返事はないですけど。」
ブレイクはやれやれといった様子で手を差し出した。
おなまーえは彼の細い指に分厚い文を手渡した。
「でも、これで借りひとつですよ」
「はて、なんのことでしょうか」
「レイブンのこと、オズ様に言っちゃいますよ?」
「……ケッ、あなたに借りを作りたくはないんですけど」
「大丈夫、変なことには使ったりしませんから」
「どうですかネェ」
彼は目を細めて舌をべっと出した。
借りというものは作って置いて損はない。
おなまーえはしてやったり顔をした。
「さてと、私はこれからムシに会いに行きます」
「……ああ、
「正確には確保に協力しただけですけど」
手紙も渡したし、本日の求婚も済んだ。
これ以上レインズワース邸に居座るのも迷惑だろう。
おなまーえは「それではご機嫌よう」と言うと来た道を戻った。