27. 私は過去に想いを馳せて微唾んでいる
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I will be here dreaming in the past.
私は過去に想いを馳せて微唾んでいる
「……つまりあれか…おなまーえはシンクレア家のご令嬢ということ…ですか…」
ようやく落ち着いたレイムはなぜが敬語で話しかけてきた。
すでに没落した家系とはいえ、元々は貴族。
彼はおなまーえとの接し方に困っているのだろう。
「いいよ、兄様。今まで通り接してほしい。元々弱小貴族だったし、今更兄様に他人のように接されると寂しい。」
「……わかった」
ピカピカの眼鏡をかけて、レイムは口を開いた。
「その、お前をアヴィスから連れ出してくれた御仁というのは、ユラ邸にいたファングという者で間違いないのか?」
「うん。間違いない。ファング、私に似た妹がいるって話してた。多分リリィのことだね。」
「そうか…」
この時、彼の中である仮説が働いた。
(もしかして、バスカヴィルの民は私たちとなんら変わりのない"人"なのではないか?だとすれば話し合いの場を設けることも不可能ではないのでは…?)
黙りこくった兄を不審に思い、おなまーえは顔を覗かせる。
「兄様ー?」
「……なんでもない。で、話すことは以上か?」
「うん」
彼はスクッと立ち上がった。
「本・当・かぁ〜?」
「ひぇ」
レイムが見たことのないほど恐ろしい顔でこちらに襲いかかろうとしてくる。
あまりの形相に思わず逃げた。
「まだ隠し事があるだろう!?言え!!」
「わ、わかりましたってば!だから追いかけないで〜!」
おなまーえはベットの隅に寄り、気まずそうに視線をそらした。
レイムは無言の圧力をかけてくる。
「えっと…その…」
「……」
「私の、寿命なんですけど…」
「……」
「多分ブレイク様と同じで、あと少し…かと…」
レイムが本気で自分を心配してくれているのがわかっているから、おなまーえはまっすぐに彼を見ることができなかった。
彼は怒るだろうか。
悲しむだろうか。
それとも無感情なのだろうか。
「……そうか」
ところが意外にもレイムは表情を一変し穏やかに笑った。
ぽんっとおなまーえの頭に手を乗せて髪の流れに沿って撫でる。
「ありがとう」
「…へ?」
予想外の反応におなまーえは目が点になる。
「これでも兄として心配はしているんだ。だが、何よりお前がこうしてちゃんと話してくれたことが嬉しい。」
「兄様…」
たとえ血が繋がっていなくても、レイムはおなまーえを心から心配してくれていた。
由緒正しいルネット家にとって、いくらルーファスの指示とはいえ、何処の馬の骨ともわからない少女を養子に迎え入れるなど恥だし迷惑だった。
まだ10歳とはいえ、おなまーえもトゲトゲしい視線を感じ肩身の狭い思いはしていた。
義両親とは共に食事などしたこともないし、上の義兄たちとは会話すらしたことがない。
そんな窮屈な家でおなまーえが過ごせていたのは、ひとえにレイムのおかげなのだ。
いつも気にかけて本当の兄妹のように接してくれた。
「……礼を言うのは私の方ですよ」
ずいっと彼に一歩近寄った。
(兄様がいたから私もルネットとして生きて来れたんですよ)
おなまーえもレイムの頭に手を乗せた。
****
「……ところでここ、どこですか?見たところパンドラじゃないみたいですけど」
血のついたドレスを脱いで、適当なスラックスとシャツに着替えた。
男性用で胸回りがきついため、第2ボタンまで開ける。
「お前なぁ…」
そんなおなまーえの見た目と発言に、レイムは額に手を当てた。
「ここはラトウィッジだ」
「あー…なる、ほど??いるのは私たちだけ?」
「オズ様やシェリル様もいるぞ」
どうやらシェリルの梟でおなまーえとブレイクとシャロンはここまで来たらしい。
「え、あのちっちゃい梟に私たち連れられてきたの?」
「いや、巨大化したフクロウに…」
「え、なにそれホラー」
おなまーえは思わず身震いした。
「サブリエへは同じように梟の力をお借りすることにきまった。そのためシェリル様には少しの間休養をとって頂いている。」
「ふんふん、兄様の説明はいつも簡潔で分かりやすいです」
「……ついたぞ、この部屋だ」
着替えのため洗面所にいたおなまーえはある一室に案内された。
そこにブレイクが寝かせられているとレイムは言う。
「……なんか、恥ずかしくなってきた」
「なにを今更。婚姻届まで渡していた仲じゃないか。」
「それは記憶がなかったからできた芸当ですよー」
一向に部屋に入らないおなまーえに痺れを切らして、レイムが扉を開けた。
「ぁ…」
ブレイクがベットの上に横たわっていた。差し込む日差しに照らされる白髪がキラキラと光っている。
悩ましげな顔するも美しく見えるのだから、もう末期だと我ながら思う。
「……これ、襲ってもいいですか?」
「やめろ、バカ」
すっかりいつもの調子に戻ったおなまーえは、スコーンと頭を殴られた。