9. 暗闇がやってくる、夜明けを何度も呼ぶの
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Darkness falls, i'm calling for the dawn.
暗闇がやってくる、夜明けを何度も呼ぶの
ガタガタと馬車が揺れる。
おなまーえはルーファスに頼み込んで、オズ達と共にレインズワース邸に向かっていた。
その理由は彼から自分の話を聞くためである。
「先ほどアホ公爵が仰っていた通り、私の本名はケビン=レグナードと申しマス」
ブレイクの正面に座った彼女はグッと拳を握った。
「私の家は古くから騎士の家系でしてネ、幼い頃からシンクレア家という家にお仕えして参りました。」
ズキンと頭が痛くなる。
(そうだ……私の名前は、おなまーえ=シンクレアだ。でも…)
またパズルのピースがハマった。
どうやら記憶が戻るたびに頭痛がするようだ。
「シンクレア家…」
オズが顔をうつむかせた。
おそらく教養として、基本的な貴族の名は覚えているのだろう。
ならば知っているはずだ。
この家がどうなったか。
「オヤ、ご存知でしたか。流石は勉強家ですネー。」
アリスは興味なさげに外の流れる景色を見つめた。
「…かつて一族全員が何者かの手によって皆殺しにされた家だ」
皆殺し、というのはチェインの存在を知らない一般人に向けての書物に書かれた内容。
つまりパンドラの資料ではこの内容は異なる。
「それは表向きの説明だな。本当は…」
「ギルバート君」
ギルがそれを説明しようとしたところでブレイクが制した。
「私がかつて生きていた時代はネ、本当にドロドロした世界だったんですヨ」
うん、確かに両親や上の兄弟は常にピリピリしていた。
末っ子の私に見させまいと姉や使用人が懸命に庇ってくれた記憶がある。
「サブリエの悲劇から十数年、数々の問題をかたづけ、首都をレベイユへと移し、人々は心に平穏を取り戻そうとしていました。」
物資も少なく、国全体が不景気に陥っていた。
それでも人々は復興しようと努力した。
「そんな中巻き起こったのは、新たに生まれた四大公爵家を頭に据えた貴族達の派閥争いです」
国からの絶対的な保護を受ける四大公を忌み嫌う者。
または彼らの下につき、その恩恵にあやかろうとする者。
おなまーえのシンクレア家はこの前者であった。
今思えば、なんとも愚かなことだ。
「私がちょうどお嬢様と共に屋敷を離れていた間に、賊の手によってかつての我が主人は命を刈られました。」
――ズキンッ
『ケビン!いくよ!』
『そんなに慌てなくてもお花畑は逃げませんよ』
ケビンと、約束していた花畑に向かった。
すっかり夜も遅くなってから帰宅した時の衝撃は忘れられない。
赤い血の海。
変わり果てた顔の兄弟。
ただただ意味がわからず泣き叫んだ。
「本当にネ、バカみたいに後悔ばかりが押し寄せるんですヨ」
ブレイクは拳をガラスにコツンとぶつけた。
「『なぜ主人の側にいなかったのか』『なぜもっと周りの貴族共の動きに気をつけていなかったのか』。そんな思考をぐるぐると繰り返していた時デス。悪魔が私に囁きかけてきたのは。」
過去を変えたいのかとチェインは語りかける。
人の心の隙間に付け入るように。
チェインと契約した頃から彼はおなまーえの側を離れるようになった。
『……お父様もお母様もみんなみんな死んじゃった。』
部屋を出て行こうとするケビンに必死に手を伸ばす。
『…ねぇ行かないでケビン…やだよう。私、ひとりになっちゃうよ……』
彼は一瞬だけこちらを見ると外の光に吸い込まれていった。
ケビンは幼い彼女を置いて夜な夜な街に出て、朝になると帰ってきた。
その顔が日に日にやつれて行ったのを、おなまーえは覚えている。
足止めすることもできず、ただ不安な気持ちで彼の帰りを待っていた。
「後は、みなさんがお聞きになった通りですヨ」
彼は多くの市民を殺し、その果てにアヴィスに堕ちてアヴィスの意思に出会った。
「……そこまでしても過去を変えることはできない。なのにチェイン達はどうして……」
神妙な顔をしたオズが呟く。
それに対して、ブレイクは自嘲気味に笑った。
「いいえ、私は過去を変えました」
「「「!?」」」
おなまーえだけでなく、馬車に乗っている全員が目を見開いた。
「彼女は、アヴィスの意思は私の願いを聞き届けてくれたんですヨ」
アヴィスの闇に飲み込まれ、次に彼が目を覚ましたのはレインズワース家が管理するアヴィスの扉の前だったという。
おなまーえとほぼ同じ状況だ。
まだ若干6歳だった彼女も、気がつけばバルマ家が管理するアヴィスの扉の前に放り出されていた。
「周りとの噛み合わない会話から、私は今いる場所が自分の時代より30年以上も後の世界であることを理解しました。だから私はすぐにシェリル様にお聞きしたんです。」
『シンクレア家が今どうなっているか?』
『はい』
シェリルは少し困ったような顔をした。
『……かの家は既に潰えています。おそらくはシンクレア家と対立する貴族の仕業でしょうね。』
ケビンは目を見開いた。
(潰えている?末のお嬢様がまだ生きていたはずだ)
『シンクレア家の長女が何者かの手によって殺害され、それを憂いた末の少女が違法契約者へと成り果てたのです。』
なんだ……それは……
『彼女は一族の者をチェインへと捧げ、最期にはアヴィスへと引きずりこまれていったといいます。』
そんなのは知らない。どうして、どうして
こんなことに…
そこでようやく彼が気づいた事実は、"過去が書き換えられている"ということだった。