1月28日
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聖杯とは、あらゆる願いを叶える願望機だ。
過去の英雄をサーヴァントとして召喚し、最後の一騎になるまで争う。
そしてその勝者はすべての願望を叶える権利が与えられる。
あらゆる時代、あらゆる国の英雄が現代に蘇り、覇を競い合う殺し合い。
――それが聖杯戦争だ。
1月28日
深夜。
大袈裟なくらい顔を上に向けて、少女は大きく深呼吸をする。
冷たい空気が肺の中を満たし、生暖かい空気が吐き出される。
――すっ
少女は強張った面持ちで手を掲げる。
少女を見つめるのは、深淵のような目を持つ男。
彼女は振り返り、彼に縋るように視線を送るが、ただ静かな頷きしか返されない。
「……」
腹をくくるしかない。
少女は唇を開き、白い息を吐いた。
「素に銀と鉄…礎に石と契約の大公……降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。」
教会の一角、地面に現れた円は淡く光りだす。
どこからともなく、ふわりと風が巻き起こった。
「
寒さと緊張で手が震えた。
触媒であるイヤリングが彼女の耳元でキラリと光る。
「――告げる」
これは願望機を求める儀式。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」
願うことは一つ。
勝つことが全てではないけれど、勝たないことにはなにも始まらない。
たとえそれで命を落とすことになったとしても、何もしないで最期を迎えるのは嫌だ。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」
――パァッ
まるで昼間のような明かりが教会を覆う。
「汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」
空気が震え、風がうねる。
少女が震える声で言い切るや否や、足元の魔法陣が一層眩く光り、空間が裂けた。
その瞬間、膨大な魔力が持っていかれる。
「く…」
くらりと視界が揺れたのをなんとか踏みとどまった。
しっかりしなければと自身を叱咤する。
召喚が成功したのであれば、おそらく呼ばれたのは、このイヤリングにルーン魔術をかけた彼だ。
徐々に光が収まってくる。
煙と共に現れたのは、青い服を纏った男。
「これが…」
おなまーえは現れた彼をじっと見つめた。
服の上からもわかる鍛え上げられた肉体。
間違いなくケルト神話における英雄の彼だと確信した。
光と煙が完全に収まると、男は赤い槍をくるりと一回転させた。
「ひゃっ」
おなまーえは驚いて尻餅をつく。
「サーヴァント・ランサー、召喚に応じ参上した」
「あ…」
目をパチクリとさせたおなまーえと、召喚した男の鋭い目が交差する。
まるで冬の空気のように凍てついた目と、綺麗に手入れされた鋭い槍におなまーえは完全に萎縮してしまう。
「……随分と若いマスターだな」
「え…」
この少女がマスターであると、ランサーも認識したようだ。
先ほどの凍てつくような目とは打って変わって、にこりと人懐っこい笑みを浮かべた。
彼は、尻餅をついたままの彼女に手を差し伸べる。
「ま、気楽にやろうや、嬢ちゃん」
「よ、よろしくランサー……私はおなまーえ」
恐る恐る手を握り返す。
( ――あったかい)
掴んだその手はまるで生きている人間のように暖かかった。
サーヴァントとは、英雄が死後、人々に祀り上げられ英霊化したものを、魔術師が聖杯の莫大な魔力によって使い魔として現世に召喚したもののことを言う。
有り体に言ってしまえば、いわば幽霊を使い魔として呼び出すようなものだと、背後にいる男・言峰綺礼からは聞いていた。
だが今つかんだこの手からは確かに生を感じる。
下級のありきたりな使い魔であれば割り切れるが、人の形を成している彼をただの道具としてみることは難しい。
「ありがとう」
立ち上がらせてもらったことに礼を述べると、彼女は俯いてスカートの裾をはらった。
出会い頭に痴態を晒して、おなまーえも恥ずかしくないわけではなかったのだ。