第1章・君をいつの間にか4

季節は秋から冬へと移行していた。

祥太郎は入学式以降、一度も登校出来ずにいた。

それどころか、体調は悪化する一方で、もう会話する事すらままならない日もあった。

急激な成長が、祥太郎の自律神経と連動出来ず、頭痛は酷くなるばかりだった。

理苑もバスケ部と勉強に追われ、習い事のスイミングに加え塾まで行くと自ら言ってしまった手前、文句も言えず、あまりの忙しさに目も回る日々だった。

それでも何とか時間を作って、何度か祥太郎に会いに行こうとしたが、あまりの体調の悪さに祥太郎の母から、しばらく来ないでくれと言われてしまった。

スマホを持たない祥太郎の容態は、母同士の会話からしか垣間見れなくなった。

休み時間、理苑はあまり友達付き合いの良くない直輝が、珍しく廊下でクラスメイトと話してるのを見かけた。

直輝は祥太郎と会ってるかも知れない。

そんな希望から、珍しく理苑から直輝に話し掛けた。

「直輝。最近、祥太郎に会うてるか?」

「一昨日、会うてきたで」

直輝の言葉に、理苑の胸が痛んだ。

自分はもう一月以上、祥太郎に会っていない。

何故、直輝は会っているのか。

祥太郎の母が、直輝だけは面会を許しているのか。

自分には来るなと言ってきたのに。

焦燥が胸の真ん中でトグロを巻いた。

「オレ、祥太郎に最近、会うてないねん。アイツ、元気してたか?」

「元気な訳ないやん。ずっと寝たきりや。少しやったら、好きなもんの話とかするけど……。僕もロボットの話、してんけど、反応イマイチやった」

「……そうか……。今、オレが会いに行ってもアカンかな」

「理苑が行ったかって、部活の話とか、彼女の話しかせんやん。逆に祥太郎、しんどなるわ」

直輝の言い分に、ギョッとした。

「彼女って何やねん!オレ、誰とも付き合うてないで!」

「そうか?バスケ部の高橋といつも一緒に帰ってるらしいやん」

「あれは、同じクラブやし、アイツが勝手に付いてきてるだけや。別に付き合うてるとかと違う」

「お前はそう思てるかも知れんけどな。理苑と高橋が付き合ってるて、かなり有名やけど?」

中1ともなると、新しい恋バナは何よりものニュースだった。

特に女子は、男子より成長が早い分、恋バナは何より重要な話題だ。

本当の話も噂話も、関係なく真しやかにすぐに広まってしまう。

「とにかくそれ、デマやから!誰がそんなん言うてるねん」

「高橋も否定してへんねんから、本人は満更でもないんちゃう?祥太郎も理苑は昔からモテてるから分かるわ~って言うてたし」

理苑は、その場で飛び上がる程に驚いた。

何故、祥太郎がそんな事を知っているのか。

学校には全然、来てないのに。

「オマエ、それ祥太郎に言うたんか」

「何や、問題あるんか。そんなに気にするなら、日頃からその行動を改めろや」

直輝との会話を、周りの人間は黙って聞いていた。

2人の冷めた空気を壊す事が出来ず、誰も間に入れなかった。

理苑は踵を返して、その場から立ち去った。
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